<ヤクルト5-3阪神>◇16日◇神宮

 長く苦しいトンネルから完全に抜け出した。惜敗の中での収穫は、今季最大のスランプに陥っていた阪神鳥谷敬内野手(33)の復調だ。同点に追いついた直後の5回2死二塁。徳山が投げた初球の低めフォークを見逃す。2球目、同じコースに沈んできた。巧みにすくい、中堅やや左にライナーで落とす。「最初の2打席、チャンスで打てなかったので、何とか走者をかえしたかった」。意地の勝ち越し打だった。

 9月は調子も下降線で、前日15日の第2打席まで、22打席連続無安打だった。7回の中前打でくさびを打ち、マルチ安打を記録していた。一気に上り調子に転じるためにも、この日が重要だった。1回1死二塁では直球を仕留めきれず左飛に倒れ、3回2死二塁ではフォークを引っ掛けて二ゴロに終わっていた。三度目の正直でベクトルは上向く。8回には秋吉の外角低めチェンジアップをとらえ強いライナーで左翼線二塁打。しなやかで、力強い身のこなしがよみがえった。

 2戦連続マルチ安打の鳥谷も「二塁打の方がしっかり振って、うまく打てたと思う」と好感触を認める。好調時は間合いを図る際、背中が動かずに静かだが、ノーヒットの間は肩甲骨あたりをわずかに動かしながらリズムを取ることもあった。直前カードの広島戦では厳しい内角攻めに遭い、窮屈なスイングをするシーンも度々あった。「自分で何とかするしかない」と話したが、見事な回復ぶりだ。

 チームリーダーの不調は皮肉にも3番としての存在感を際立たせた。1、2番のリードオフマンと4、5番の助っ人コンビをつなぐ強打者が不振で、打線は迫力を欠いていた。和田監督も「状態が上がりつつある。大和も含めてね。多少、動きが出てきたし、点を取っていける姿勢になってきている」と手応え。窮地をしのいだ鳥谷は言う。「個人的なことより、勝てなかった。切り替えてやりたい」。元気になったキャプテンが猛虎打線を上向かせるキーマンだ。【酒井俊作】