ボクシングの元世界王者辰吉丈一郎(46)が語る「スター論」が興味深かった。10月1日、次男寿以輝(20)のプロ第6戦、後楽園ホール初登場となった一戦をリングサイドで観戦。試合は寿以輝が初回にプロ初のダウンを奪われるも、そこから強引に攻め返し、5回TKO勝ち。豪快な試合で会場を沸かせた。

 だが、試合後の辰吉の評価は厳しかった。「パワー、スタミナ、パンチと良いものは持っているけど生かし切れていない。練習量が足らん。練習したことしかリングでは出されへん。努力に勝る天才なしや」。そして、そこからが辰吉ならではだった。

 「寿以輝のボクシングには個性がないというか、華がない。『こいつのこれが怖い』というのがその選手の武器。その武器で勝ち続けていけばそれが華になる。スターというのは、次はどんな試合を見せてくれるの? とワクワクさせてくれる存在。華があるから客が呼べる。あいつが普通の選手なんなら今のままでいいけど、『辰吉』はそれじゃあかんねん」。

 思い出す試合があった。99年8月の大阪ドーム。辰吉-ウィラポンの第2戦だ。当時高校生だった記者は、友人と一番安い席のチケットを買って試合を見に行った。リングで戦う辰吉は豆粒のように小さく、簡易な双眼鏡を買って声をからした。7回TKO負け。わずか20分あまりの短い時間だったが、入場曲が流れ始めた瞬間の熱狂、あのフワフワとした異様な空気感は今も頭に残っている。

 あれから17年。当時3歳だった寿以輝が、A級昇格を決める節目の勝利を挙げた。まだまだ技術的には荒さも残る。父と比較するのはもちろんコクだが「辰吉」の名には人を引きつける魅力がある。「ぼくにとっては普通のお父ちゃんです」。そう語る寿以輝にも、父のようなスターになってほしい。【奥山将志】