大相撲の関脇大栄翔(30=追手風)が、悲願の大関昇進に向けて再出発を誓った。20日、横浜市の横浜アリーナで行われた春巡業に参加。大関琴ノ若と4番、関脇若元春、小結錦木、大関経験者の前頭高安と各1番の計7番取り「内容のある稽古ができた」と、充実の表情を見せた。2勝5敗と結果こそ出なかったが、いずれも強敵を相手に得意の突き、押し、さらには組みつかれた際の攻防などを確認。「巡業だと番数はあまり取れないけど、今日みたいな稽古をしていれば、番付発表後もスタートを切りやすい」と、夏場所(5月12日初日、東京・両国国技館)を見据えて、順調な仕上がりを強調した。

3月の春場所は6勝9敗と、一昨年九州場所以来、8場所ぶりに負け越した。6場所守ってきた関脇から陥落は確実。さらに小結も含め、7場所守ってきた三役からの陥落も濃厚となっている。特に春場所は昨年、千秋楽を単独トップで迎え、2度目の優勝目前まで迫りながら、千秋楽に霧馬山(現大関霧島)に本割、優勝決定戦と2連敗し、優勝をさらわれた格好となった。それだけに「(雪辱など)そういう思いがあったのに、先場所はあの結果。(大関に)上がりたい気持ちでやっていたのに、正反対の結果になってしまった。本当に悔しい」と、今も無念の思いは消えていない。

大関昇進の目安が「三役で3場所33勝」といわれる中、昨年7月の名古屋場所は、直前2場所で12勝、10勝を挙げており、11勝すれば目安の33勝に到達し、10勝でも3場所連続2桁白星の安定感から、昇進の可能性は高い状況だった。だが名古屋場所は9勝止まり。同じく大関とりだった豊昇龍が初優勝で3場所33勝に到達し、場所後に大関に昇進した。その後も、埼玉栄高の後輩でもある琴ノ若に先を越された格好。大栄翔も勝ち越しは続けており、大関昇進レースの“隠れリーチ”状態を継続していたが、先場所の負け越しで、昇進は白紙、正式にリセットとなった。

大栄翔は「まずは、元の地位に戻ること。スタート地点に立つ」と、三役から陥落することを覚悟した様子で、大関昇進に向けて再挑戦する決意を示した。1年前に逆転優勝を許した霧島を含め、自身も「大関候補」に名を連ねたこの1年間に、3人の大関が誕生した。痛感したのは「大関は、チャンスをつかめる人しか上がれない」という、勝負強さの必要性。同時に、そのチャンスをつかんだ人への敬意は忘れない。特に、この日4番取って1勝3敗だった琴ノ若は「僕が高校を卒業するまでに(琴ノ若は中学から入学していたため)2年間一緒だったし、もちろん悔しい気持ちはある。でも、それ以上に刺激をもらっている。後輩とは思わない。純粋に強い人と『稽古をさせてもらっている』と思っているし、勉強になる。プラスになることの方が多い」と、どこまでも前向きだ。

普段から仲の良い大関貴景勝も、埼玉栄高の後輩だ。その貴景勝が、今回の春巡業は休場しているだけに「さみしいですよ」と、本音も明かした。続けて「あと、暇ですね。暇だからか、30歳を超えたからなのか、すごく眠くなる」と話し、豪快に笑った。ただ、衰えも感じていなければ、ましてや精神的に老け込むわけもない。「30歳になったからといって、稽古を減らしても意味ない。ガンガン稽古することしか知らないんだから。まだまだ、これからですよ!」。再び大関昇進レーズに名乗りを上げ、今年こそ、チャンスをつかむつもりだ。