あの日から1年が過ぎた。北の湖前理事長(元横綱)が急逝したのは昨年九州場所13日目の11月20日。十両北太樹(34)は「1年前は笑えなかったですね」としみじみと言った。昨年の千秋楽。「北の湖部屋」で最後の相撲に勝ったとき、目には涙がたまっていた。

 早くて長い1年。今も存在は薄れていない。山響部屋となった弟子らは朝、稽古場で黙とうをささげた。思い出を、誰ともなく語り合った。「思い出すのは楽しいときの笑顔」。亡き師匠の在りし日の姿は、にこやかなものばかりだった。

 「言葉に不思議な重みがあって、たまに怒られた次の日は、みんな勝つ。なんなら15日間、怒ってほしいと思っていました」。今も、負けた日は自問自答する。「師匠が生きていたらこう言うだろうなと。そうすれば気持ちも引き締まる」。十両北はり磨(30)も「言ってもらえると心が楽になって、迷いがなくなる。今は寂しい」と振り返った。

 命日に相撲を取った8人中5人が白星をささげた。負けた北はり磨は「確実に怒られています」と苦笑い。6勝目を挙げた北太樹は「見守ってくれているのかな」と言った。部屋での夜の食事。「師匠」が座っていた席を空けて、みんなで囲んだ。どんな言葉が、聞こえただろう。【今村健人】

 ◆八角理事長(元横綱北勝海)の話 (前北の湖理事長の死去から1年)これまでの人生で一番、あっという間の1年だった。北の湖理事長はもちろん武蔵川、放駒の先代理事長時代に大変な時期があって今がある。課題はまだまだある。協会をいい方向に進めたい。