4階級制覇を目指した亀田興毅(28=亀田)が、王者河野公平(34=ワタナベ)に0-3の判定で敗れ、試合後に引退を表明した。バンタム級王者時代の13年11月のV8戦後に、自身の衰えを痛感。次に迎える世界戦をラストマッチにすると、ひそかに決めていた。挑発的なパフォーマンスで注目を集めた一方、ルールを逸脱した言動で問題も起こした。日本ボクシング界を騒がせ続けてきた男が、米国で約12年の現役生活に幕を下ろした。

 控室から出てきた興毅の目は、どこか優しかった。試合を短く振り返った直後、今後について、意を決したように話し始めた。突然の引退宣言だった。

 興毅 この試合が終わったらやめると決めていた。だから、悔いが残らないように必死に練習してきた。30歳までに引退すると決めていたし、きれいさっぱりやめる。勝って終わるのがきれいだが、結果がすべて。3階級制覇もできたし、悔いはない。いいボクシング人生を歩めた。

 日本人初の4階級制覇を目指したリング上。勝者としてコールされた河野のもとに歩みよると、わずかに言葉を交わした。試合前、何度も挑発を重ねた姿はそこにはなかった。17歳のプロデビューから約12年。激動の現役生活に幕を下ろした瞬間だった。

 この一戦にすべてをかけていた。13年12月、次男大毅の世界戦で混乱を招いたとして、ジム会長らが日本ボクシングコミッション(JBC)から処分を受け、3兄弟は国内で試合ができなくなった。同じ時期に、東京・三軒茶屋に新しいジムをオープンすることが決まっていた。騒動の影響か、入会の問い合わせはぴたりとやみ、ゴールの見えないつらい日々が始まった。

 ジム運営は毎月、赤字だった。ボクシングでも先は見えず、「毎日が苦しかった」ともらした。普段飲むことのない酒を、何度も記憶がなくなるほど暴飲し、現実から目を背けた。そんなある日、妻の美香さんから言われた。「みんな見てるよ。子供もいるのに。そんな姿、恥ずかしくないの?」。悔しさで目が覚めた。

 「光」が見えたのはその直後だった。WBAからの指令を受け、河野との世界戦の話が浮上した。「ファイトマネーは0でもいい」。すでに肉体的衰えも感じており、現役最後の舞台を求め、海外に戦いの場を移すことを決めた。

 結果は完敗も、力は出し切った。パンチをもらい、顔が腫れても、最後までがむしゃらに打ち返した。9回には左でぐらつかせる場面も作った。最終ラウンドのゴングが鳴ると、大きく息を吐き出した。「これで終わりやな-」。

 相手を挑発するパフォーマンスで10代の頃から注目され、ボクシング界にインパクトを与えた。一方で、対戦相手の実力や不可解なマッチメークが疑問視され、実績に見合った評価を得ることはできなかった。今後は、しばらくはボクシングと距離を置く予定。「他にもやりたいことはある」と静かに語り、興毅がリングを去った。【奥山将志】