王者田口良一(29=ワタナベ)が最後のとりでとして、ジム唯一人となった世界王座を守った。セミではWBA世界スーパーフライ級の先輩王者河野公平(35)が、判定負けで王座を陥落した。2階級制覇を狙う指名挑戦者の宮崎亮(28)とのV4戦。最大10ポイント差の3-0での判定勝ちで、世界戦で初の日本人対決を制した。1カ月前からの腹痛を薬で抑えながらの調整で、初のメインで迎えた決戦。二重三重の重圧をはねのけた。

 入場前の田口に、大きな、大きな重圧がかかった。セミで先輩河野も王座から陥落し、負ければジムに世界王者不在の大ピンチ。最後のとりでに「テレビをチラチラ見ていた。自分もやばいかも」と一気に落ち込んだ。

 先輩内山を欠き、1位と指名試合、世界戦で初の日本人対決、初のメインイベンター。そこへさらに重圧も、石原トレーナーの「切り替えろ」に目が覚めた。「自分は自分と切り替えられた」とリングインした。

 リングでは不安を吹き飛ばす快勝だった。13センチ差のリーチを生かす左ジャブでペースをつかみ、プレスを掛けて先手先手と攻めた。「向こうが上と思っていた。3回ぐらいであれっ、やりやすいなと。最初からいいパフォーマンスだった」。採点も4~10ポイント差に珍しく自分をほめた。

 実は1カ月前、突然胃に痛みを覚えた。3日後の夜中には激痛に病院に駆け込もうと思ったほど。本来なら胃カメラなどの精密検査を受けなければならないところだが、決戦を控えて医師と相談の上で投薬治療にとどめた。

 V2戦は風邪でろくに練習ができなかった。10戦目までは睡眠導入剤が欠かせなかった。胃痛の原因は不明も、さまざまなストレスがあったと想像できる。痛みは収まったが、不安を抱えながらの日々だった。

 やんちゃな挑戦者に優しき好青年王者という好対照な対決だった。発表時から宮崎に挑発されてきたが、田口は「口げんかもしたことない。周りは平和な人ばかり」とかわしてきた。「勝負はリングで」と言い続けて、見事に返り討ちにしてみせた。

 テレビのゲストだった内山に、リングから「なんとか勝てました」と頭を下げた。ジム唯一の王者としてリーダー役と問われても「僕が引っ張るのは、正直…。内山さんが帰ってくるのを待ちます」。大先輩と再び共演を熱望する。

 日本人3人目の初防衛から4連続KOは逃したものの、白井、原田らに並ぶ20位で27人目のV4となった。次戦でV5となれば、大場、ガッツらに並ぶ14位になる。3度目の大みそかの予定で、節目の一流王者をかけた戦いになる。【河合香】

 ◆田口良一(たぐち・りょういち)1986年(昭61)12月1日、東京都大田区生まれ。04年にワタナベジムに入門しアマ2戦2勝(2KO)。06年プロデビューで1回KO勝ち。ライトフライ級で07年全日本新人王。13年4月に再挑戦で日本同級王座獲得。同年8月に井上に判定負けで初防衛失敗。14年12月にWBA世界同級王座獲得。168センチの右ボクサーファイター。