<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇26日◇東京・ディファ有明

 WBC世界フライ級王者内藤大助(34=宮田)が、リング内外のアクシデントを乗り越えて5度目の防衛に成功した。挑戦者の同級10位熊朝忠(26=中国)の突進に手を焼き、序盤に両目上をカット。6回にはダウンを奪われ、8回にもぐらつくなど大苦戦。KO負けもありうる展開から経験を生かして巻き返して3-0の判定で下し、自らの持つ日本選手の世界王座最年長防衛記録を更新した。戦績を35勝(22KO)2敗3分けとした内藤は次戦で、同級暫定王者ポンサクレック・ウォンジョンカム(タイ)との王座統一戦が決定的となった。

 精も根も尽き果てた。内藤は開口一番、「しょっぱい試合をしてすみませんでした。でもこれが実力。まだまだだと分かった」と反省の言葉を口にした。ゆっくりとした口調の独特の内藤節に会場は沸いた。しかし、本人にしてみれば、奇をてらったわけではない。偽りのない本音だった。

 「内藤劇場」と呼ぶには、あまりにスリリングな展開が続いた。左ジャブを突かず、身長で12・5センチ低い熊に距離を詰められた。4回に左目上、5回にも右目上を、ともに偶然のバッティングでカットした。流れ出る血で、視界は遮られた。6回には右フックをあごに食らい、尻もちをついた。世界王者になって初めてのダウン。8回にもロープ際で右フックを受け、前のめりになった。ロープで跳ね返らなければ、再びキャンバスに沈んでいた。11回には口を切り、鮮血を吐き出す場面もあった。

 本来なら、中国・上海で行われる予定だった試合。それが手続き上の不備で、3日前の23日に国内での開催に変更された。失望させたファンに、KO勝利をささげたいとの思いが空回りした。「ダウンを欲しいな、という気持ちは常にあった。ファンに喜んで欲しかったから」。大振りが読まれてカウンターを食らい、やっと我に返った。距離を取り、足を使って逃げ、攻め手の豊富さでポイントを稼いだ。

 野木トレーナーの指導で今回から調整法を変えた。スパーリングの回数を約3分の1の100回程度に減らした分、心肺機能に負担をかける階段上りの種類を増やした。「走り込みをしていなかったら、立ち直れなかっただろうね」。長期防衛の礎につくり上げた体が、苦しい場面で動いた。5度目の防衛で、フライ級では伝説のボクサー大場政夫が持つ日本人選手最多記録に並んだ。

 次戦は暫定王者ポンサクレックとの統一戦となる見通しだ。「勝者は暫定王者と戦わなければならない」と通知する文書が、26日までにWBCから日本ボクシングコミッション(JBC)に届いたためだ。過去4度対戦し1勝2敗1分け。「やりたくねぇなあ~。あいつ化け物だもん。でもルールには従う」。おどけながらも、覚悟を決めた。今回の挑戦者の熊は今年に入ってWBCランクが急上昇した選手で、実力を疑問視する声もあった。それだけに、6度目の防衛戦はベルトの価値の問われる。試合の開催期限は27日から90日間。つかの間の休息で傷だらけの体を癒やし、大一番に臨む。【森本隆】