<プロボクシング:WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇18日◇神戸ワールド記念ホール

 WBC世界バンタム級王者の長谷川穂積(29=真正)が、5連続KOで10連続防衛に成功した。挑戦者アルバロ・ペレス(27=ニカラグア)に4回2分38秒、左のショート2連発で沈めTKO勝ちを収めた。79年10月に元WBAライトフライ級王者具志堅用高氏が達成して以来となる日本人2人目の「2ケタ防衛」。10月に他界した後援者や、がんと闘病する母裕美子さん(54)に贈る「白星」で、2日遅れの誕生日を自ら祝った。長谷川の戦績は28勝(12KO)2敗、ペレスは18勝(12KO)2敗1分け3無効試合。

 必然のKOだった。4回、ペレスの動きが鈍った。獲物は逃さない。長谷川は左のショートで右ほおをたたき、続けざま左ストレートを打ち込むと、ペレスは前のめりに倒れた。「自然に出たパンチ。手ごたえがなかったから倒れたと思います」。日本人2人目の2ケタ防衛は、5試合連続KOで鮮やかに決めた。

 出だしは硬かった。「テレビ(中継)の声がよく聞こえた。『3連続か!』って」。史上3人目の3試合連続1回KOを願う声に大振りになった。一方で、リングサイドの声が聞こえるほど冷静だった。計量後に6キロ増量。動き回りながら「今年初」の2回以降はリズムをつかんだ。「やっぱ4回はボクシングの疲労感がありますね。1回ならアップの疲労感ですもん」と心地よさそうだ。

 勝利のリング上では1分間、黙とうした。V10戦が決まった直後の10月19日、肝臓がんで他界した三木後援会会長だった松岡明さん(享年61)にささげたものだった。「いつも笑顔で、明るくて。本当にいい人でした」。激励会ではしかってくれ、時には「勝利祝い」の旅行をプレゼントされた。がんと闘う母裕美子さん(54)に、病院を紹介してくれたこともある。ジム関係者が「長谷川を一番応援していた」という恩人の悲報。翌20日の世界戦発表の席では気丈に振る舞ったが、葬儀では周囲が引き離すまでひつぎにしがみつき、ひと目をはばからず泣いた。

 試合前最後の休日だった13日。兵庫・西脇への帰郷を何よりも優先した。両親にも告げず、真っ先に向かったのは、多可高で同級生だった福本公介さん(享年20)の自宅。一緒にバンドを組み、家出をしたこともある福本さんは、10年前の12月13日に交通事故で亡くなった。親友の命日に「白星の供養」を誓っていた。

 生きることの大事さは、十分に分かっている。だからこそ、リング上からは「メッチャ泣いてるやん」と、母裕美子さんにエールを送った。「これからも試合を楽しみにしてもらえたら」。がんと闘う母を、少しでも勇気づけたい。今後も「世界最高の親孝行」を続けていく。

 会場一体の「ハッピバースデー」コールと特製グローブ型ケーキで、2日遅れの誕生日を祝ってもらった絶対王者は「1面いけますか?

 ほかにスポーツありました?

 いつも朝4時から新聞待ってるから」とアピール。3試合すべてKO勝ちし、充実の1年を締めくくり「最高です。天国にいい報告ができますね」。神戸の夜空には、いくつもの星が光り輝いていた。【近間康隆】