最後に横綱への望みをつないだ。大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が横綱日馬富士を押し出して13勝目を挙げた。今場所での横綱昇進こそかなわなかったが、日本相撲協会幹部は2場所連続の「13勝」を高く評価して、名古屋場所(7月10日初日、愛知県体育館)への綱とり継続を明言。30代最初の場所で再び綱に挑む。

 望みがつながった。その瞬間、稀勢の里は大きく息を吐いた。土俵下でも再び深呼吸。それだけの緊張感を乗り越えた。「また来場所につながる相撲が取れました」。綱とり継続を意味する13勝。自らの夢を、振り出しにはさせなかった。

 12連勝から一転、2連敗で迎えた横綱3連戦の最後の一番。昇進を預かる審判部の二所ノ関部長(元大関若嶋津)は横綱戦全敗となれば、綱とりは「出直し」と話していた。運命が懸かった日馬富士戦。それは最高の相撲だった。強烈な左でいなして、威力あふれる突き、押しで前に出た。前日の打撲で腫れ上がった左すねなど何のその。逃げる相手を一気に押し出した。

 この会心の相撲に、二所ノ関部長は「先場所も13勝して今場所も13勝。横綱にしか負けていない。安定している。ただ、優勝がない。とにかく優勝だね」。名古屋場所の綱とりに勝ち数の条件はない。「初優勝」だけを昇進の目安とした。

 自身初の連続13勝。実は価値が高い。1場所15日制となった49年夏以降、稀勢の里を除く最高位が大関の35人は誰一人、達成していない。31人の横綱でも初代若乃花や大鵬、北勝海ら9人は大関時代に経験がなく、さらに3代目若乃花ら5人は1度もない。その北勝海の八角理事長は「連続13勝は立派。なかなかできるものじゃない」とたたえた。

 大関は「(白鵬と)2つも離されているから話にならない。まだまだ」と自分に厳しい。ただ「楽しみ」とも言った。20代最後の場所が終わったが「ここからです」。2つの夢は、すぐそこにある。【今村健人】