東十両8枚目の安美錦(38=伊勢ケ浜)が勝ち越した。西十両14枚目の明生(21=立浪)を引き落とし。通算800勝目を挙げて「よく勝ち越したな。相撲内容はともかくね。相撲にならないのは分かっているけど、苦しい場所を乗り切ったかな」と安堵(あんど)した。

 実は場所中、引退すら頭をよぎっていた。7日目から4連敗を喫して、迎えた11日目の大翔鵬戦。「今日、ここで負けたらやめようかなというくらいの思いで土俵に立って、相撲を取っていた」と打ち明けた。

 左アキレス腱(けん)の断裂から強引なまでに復帰した秋場所から、まだ2場所目。状態は決して良いわけではない。だが「1回出ているわけだから(2場所目の)この状況で相撲が取れていないのは、体もそうだけど、心にもだいぶストレスがかかっていた。こんな相撲しか取れないなら…という思いが出てきて、しんどい部分があった。『安美錦はあんな相撲でいいのか、あんな相撲しかとれないなら』って」。

 それでも、大翔鵬を押し出しで連敗を止めて、気持ちがようやく前を向いた。「名前を呼ばれるだけで声援があるんだから、いいんじゃないかと。つかえが取れたかな。楽しめたとは言えないけど。38歳が20歳くらいの子と相撲を取る。この経験は親方になった人でもなかなかないと思う。いつか自分が親方になったときに生きるだろう。今できる、目いっぱいの相撲を取ろうと思った」。業師「安美錦」の力士人生の続行が決まった。

 勝ち越したことで、気分が楽になれたのだろう。思いの丈を隠さなかった38歳のベテランは最後「勝ち越してなかったら(現役を続けるか)分からなかったけどね」と、ちゃめっ気たっぷりに笑っていた。