第1作からスター・ウォーズ(SW)シリーズの宣伝に関わっている古澤利夫さん(69=元20世紀フォックス)から38年前のエピソードを聞いたことがある。

 「SWの主演2人は全然性格が違うんですよ。(ルーク・スカイウォーカー役の)マーク・ハミルは当時から結婚していて、来日キャンペーンには奥さんと赤ちゃんを連れてきました。絵に描いたような純なカントリー・ボーイ。オーディションで選んでくれたジョージ・ルーカス監督への感謝の気持ちでいっぱいでした。一方の(レイア姫役の)キャリー・フィッシャーは4歳下なのにずっと大人だった。ハリウッド・セレブの空気を醸し出していて、取材の受け答えにもそつがなかったですね」

 第1作「新たなる希望」公開時の話で、マーク・ハミルは26歳、キャリー・フィッシャーさんは22歳だった。そのフィッシャーさんが60歳で亡くなった。ロンドンからロサンゼルスに向かう機内で体調を崩し、救急搬送された病院で亡くなったというから、文字通りの突然死である。

 昨年公開の「フォースの覚醒」では元気な姿を見せ、公開中の「ローグ・ワン」でも、その存在感であっと言わせるサプライズ効果をもたらしている。来年公開の「エピソード8」(仮題)の出演シーンはすでに撮影済みだという。最終話となる3年後の「エピソード9」でどのような「位置付け」にされるかは不明だが、42年にわたってレイア姫をまっとうすることになるのだろう。

 父は歌手のエディ・フィッシャー、母は女優のデビー・レイノルズだから、古澤さんの話にもあったように絵に描いたようなハリウッド・セレブである。

 ルーカス氏が「姫」に選んだ理由も、堂々としていて人に命令することに慣れた雰囲気を持っていたことだと言われている。78年の来日時にも「相撲が見たい」等々、多くのオーダーがあったそうだが、実際に相撲部屋に案内すると喜々としてちゃんこ鍋を食べるようなかわいらしいところもあったという。

 早熟で好奇心旺盛なお嬢様にとって、ハリウッドは過酷な環境でもある。ウォーターゲート事件の報道で知られた元ワシントン・ポスト紙の記者、ボブ・ウッドワード氏がハリウッドの裏側を取材した「ベルーシ殺人事件」(集英社)にこんな一節がある。

 「ジョン・ベルーシはフィッシャーにたいがいのことはすべて試させた。酒嫌いの彼女に、ワイルドターキーを飲ませ、一緒にアヘンを吸ったりした。『断言できないけど、彼は1日およそ4グラムのコカインを使用していた』とフィッシャーは言っている。ベルーシは大量の薬を持っていた。そして、頼めばたいていは分けてくれるのだった。しかし、フィッシャーはドラッグの持つ威力と恐ろしさの両方を知っていた。彼女の父親は、10年以上にわたって、スピード(覚せい剤)を打ち続けていたのだから」

 親しかったベルーシは薬物の過剰摂取で33歳で急死。フィッシャーさん自身薬物依存に悩んだ時期があった。

 自らも自伝的小説でその回復過程を書き、母デビー・レイノルズさんとのしんらつなやりとりは、メリル・ストリープとシャーリー・マクレーンという豪華キャストで「ハリウッドにくちづけ」(90年)という映画になっている。

 フィッシャーさんは84歳になったその母親にみとられて息を引き取ったという。そして、母デビーさんも娘の葬儀の打ち合わせ中に倒れ、後を追うように亡くなった。「雨に唄えば」で知られた往年のミュージカル・スターの母と、SF映画の金字塔でヒロインとなった娘がくしくも時を置かずに星になってしまった。

 フィッシャーさんにとってレイア姫は最高の当たり役だが、他には実績らしいものを残すことができなかった。女優としてはじくじたる思いもあっただろう。だが、公私にわたり、ある意味もっともハリウッド的存在として足跡を残したことは確かだ。【相原斎】