チョン・ジュニョン(35)は韓国の人気ロック歌手だった。父親の仕事の関係で5カ国語を操り、その独特の雰囲気でインディーズバンドから成り上がる。大ファンだった学生のオ・セヨンはサイン会で彼の目に留まったことからテレビ共演まで果たし、周囲もうらやむ至福の時を過ごす。

が、19年、ジュニョンは複数の女性に対する性暴行罪で逮捕。20年の2審でも懲役5年を言い渡される。

突然「犯罪者のファン」になってしまったセヨンは、同じような経験をした友人たちを訪ねながらカメラを回し始める。彼女はもともと映像の仕事を志していたのだ。韓国で芸能人の犯罪が頻発したこの時期に異色のドキュメンタリーとして完成したのが「成功したオタク」(30日公開)だ。

韓国の「推し活」は日本以上に熱いようで、セヨンはもちろん、訪ねる友人の家もグッズに埋もれている。人生のすべてだった憧れの存在が突然犯罪者になってしまったら…。彼女たちは混乱、苦悩、葛藤を経て、許せない派と最後まで寄り添う派に別れるという。

前者のセヨンが訪ねる仲間たちも許せない派だ。

「学校でも、家族ともうまくいかない私にとって彼は救世主のような存在だったのに」「逮捕のニュースにビックリしない自分に驚いた」「裁判の傍聴は知った顔ばかり。推し活は面白いと思った」…

明かされる本音が、さまざまなファン心理を浮き彫りにする。

「虹だと思っていたものが蜃気楼(しんきろう)だった」「彼を好きだった自分にも失望した」「友人が結婚したときに歌おうと思っていた歌が、そこでは歌えない歌になってしまった」

人生の苦悩を映す名言のような体験談もある。

ジュニョンの犯行を一報した女性記者はSNS上でファンからの激しい攻撃にさらされたという。セヨンは彼女も訪ねて話を聞く。#Me Too運動の発端となったニューヨーク・タイムズの記者のようにたたえられることのなかったスクープ記者の冷静な告白には思わず聞き入ってしまう。

自分とは異なる最後まで寄り添う派の心理を理解するため、セヨンはパク・クネ元大統領の支援集会を訪れる。中高年の熱心な支援者は、集会に参加したいと一般人を装う彼女を「若いのに真の愛国者」として受け入れ、元大統領を励ますハガキの書き方をていねいに指導する。「心のこもった」手紙を書かざる得なくなってしまったセヨンは、その様子を淡々と映しながら「罪の意識を覚えました。最後まで寄り添う派の人たちの気持ちがわかったような気がした」とナレーションを入れる。

結局セヨンは、「推し」が犯罪者になってもファンをやめない人たちには会わない。原理主義者のような思考が怖いからなのか、自分の中にもあるそんな思いが頭をもたげるのが怖いのか。そんなためらいをも正直に映したところもこの映画の魅力だ。

「誰に憧れても『地雷』だらけだ。永遠に憧れられる人は、この世を去った人だ」と、歴史上の偉人の名を挙げるナレーションが記憶に残った。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)