大谷廣松(22)がぐいぐい進化している。今年は新作から古典、立役、女形と大忙しだった。来年も東京・新橋演舞場「初春花形歌舞伎」(1月3~24日)で大役に抜てきされた。謙虚に芝居を語る姿と目を輝かせてアウトドアの趣味を語るギャップもいいのです。

 来年は大役からスタートする。1月の新橋演舞場「初春花形歌舞伎」では、古典の名作「菅原伝授手習鑑(てならいかがみ) 車引」の杉王丸を務める。女形を中心に務めてきたが、次はこれまでのイメージが大きく変わるような荒々しい立役(男役)。大きな転機になりそうな予感だ。「最近は立役(男性の役)も多いので、経験を生かして精いっぱい務めたいです」と、緊張気味に語った。

 優しそうな目元に、常にほほえみをたたえた表情。ここ最近ぐっとかっこよくなった。

 「顔が締まったんです。何もしてないんですけど、単に大人になったんでしょうね。体は変わってないんですけどね」

 活躍の1年だった。1月の「石川五右衛門」に始まり、六本木歌舞伎や巡業もあった。11月の歌舞伎座「若き日の信長」では、信長の守り役・平手中務(なかつかさ)正秀の三男。ピュアな役にはまっていた。

 「末っ子の役で、僕自身も末っ子です。お父さん大好きで、死んでほしくない。反抗はするんですけど、やっぱり嫌だって一途に思ってる役です。お役をいただいて、本当にうれしかったです」

 市川海老蔵が座頭の公演に出演することが多く、刺激を受けた。

 「お兄さんは客観的に見てくださるんです。僕とはタイプの違う役をやられる方なので『俺だったらこうする』ではなく、『ここはこの方がいいんじゃないか』という言い方でおっしゃってくださる。この1年は勉強になりました。詰めの甘さが露呈して再確認できた1年になりました」

 舞踊の名作「正札附根元草摺」では舞鶴を力強く舞い自信も付いた。しかし謙虚さは崩さない。

「今いただけるお役をこなして、立役であろうが女形であろうが歌舞伎役者には変わりないと思っていますので。やりたい役も、目の前のことに集中するのみなので、遠いことはあまり考えられない状況ですね」

 あこがれは祖父の4代目中村雀右衛門だ。祖父の話を聞いて、廣松の謙虚さの源に触れたような気がした。

 「戦争に行く前は立役で、帰って来て女形を始めて、本当に苦労していろんなものを残してくれました。周りの先輩方にも裏方さんにも本当に慕われていました。人間として本来あるべき姿なのかな、と思うんです」

 プライベートは、静かに過ごしていそうなイメージだが、本人いわく「スーパーアウトドア派」。

 「休みはスキー、ゴルフ、温泉ですかね。スキーは小さいころから苗場に行ってます。サバイバルゲームも好き。来年は乗馬をやりたいし、富士山に登りたいなあ」

 このギャップがいいなあ。ちなみにクリスマスはどう過ごすかを聞いてみた(芸能記者定番の質問ですみません)。

 「どうしましょうね。うちはクリスチャンなんで、毎年教会に行くんです。友達の家でパーティーしようって話もしてます。小中高、男子校で、職場も男しかいないですけどね(苦笑い)」


 ◆大谷廣松(おおたに・ひろまつ)1993年(平5)7月21日、東京生まれ。父は8代目大谷友右衛門、兄は大谷廣太郎。屋号は明石屋。97年5月、歌舞伎座「お祭佐七」で初お目見え。03年1月、歌舞伎座「助六由縁江戸桜」で2代目廣松を名乗り初舞台。来年3月から、叔父中村芝雀の5代目中村雀右衛門襲名公演。「けがなく、大病なく、叔父さんのサポートができたらなと思います」。市川左團次とは自宅が近所で、親分と呼んで慕っている。焼き肉大好き!