◆がむしゃら(日)

 「百円の恋」で安藤サクラのキレのいいボクシングシーンに目を奪われてから、格闘技系の女子にやや弱くなっている。

 映像からはリング上の痛みが伝わる。叫びは胸に響く。悪役レスラー、安川悪斗の人生はすさまじい。中学時代のレイプ、高校時代の自殺未遂。解離性人格障害の診断を受けてから演劇、プロレスに自分の居場所を見つけていく。

 本人、関係者のインタビューと試合を追ったカメラは容赦ない。照れ、涙、声は細くなっても心の奥を映し出す。それでも飛び込み入学した映画学校の師、高原秀和監督の視線はどこか温かい。時折笑顔を呼ぶ。

 幼時の視点で徘徊(はいかい)する祖父と母の格闘を振り返る。公園では、そこであったレイプ体験を語る。平たんな声が極限状況を明かし、一拍おいてすーっと涙が出る。

 女優としてはぴりっとしない。過去の舞台ではセリフがはまらない。リングでは別人だ。やってもやられても、見栄えで相手も上回る。劇中で「だいぶ嫌いです。全部が演技に見える」と語っていた世4虎に2月の実際のリングで顔をぼこぼこにされ、病院に運ばれた。これもプロレスなのか。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)