生まれもった心に罪はない。空虚な女性の愛と罪の告白が、はかなくも美しくスクリーンを彩った。

 5年ぶりの映画主演となる吉高由里子が生きたのは、“心のよりどころ”なく生まれた美紗子の一生。松坂桃李演じる亮介が、父の押し入れから美紗子の罪が書かれたノートを発見することから、物語は始まる。

 吉高の憂いある表情が、殺人犯の美紗子を魅力的に見せる。人をあやめることだけが快楽だった美紗子が、松山ケンイチ演じる洋介の愛に触れ変わっていくさまはいとおしく、幸せを願わずにはいられない。登場人物が真実に気がつく前に、見る者にじわじわと悟らせる演出が、運命のいたずらをより残酷に映している。

 容赦のない愛を受けた美紗子の動揺、美紗子との数奇な運命に気がついた洋介の困惑。そして全てを知った瞬間の亮介の悲痛な叫びが、苦しいほど胸に突き刺さる。殺人シーンは生々しい描写が多いので、グロ苦手な方は注意です!

 原作は、まもなく70歳を迎える沼田まほかる氏の小説。著書初の実写化となったが、立て続けに来月「彼女がその名を知らない鳥たち」(白石和弥監督)が公開を控える注目の作家だ。【杉山理紗】

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