10月期の秋ドラマが出そろった。リオ五輪シフトで手薄だった夏ドラマから心機一転の秋だが、全体的な見ごたえはいまひとつの印象。ラブコメ注目作の快調が救いでもある。「勝手にドラマ評」28弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズものは除く)。

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◆「カインとアベル」(フジテレビ系、月曜9時)山田涼介/桐谷健太

★★★

 優秀な兄に劣等感を持つ弟と、弟の隠れた才能に脅威を感じる兄。兄弟憎悪を描く旧約聖書の「カインとアベル」なのは分かるが、今のところ若手営業マンの痛快お仕事ドラマになっていて、合っていないタイトルがややこしい。父親の愛情への渇望、一生懸命やったことが裏目に出る情けなさなど、「エデンの東」のフォーマットを山田涼介が演じていて、悔しくて店舗模型を破壊するくだりや、それでももう1度頭を下げに行く横顔が良かった。脚本、演出次第でもっとできる人だと思うので、おそば屋さんの誘致とか、兄弟で倉科カナの取り合いとか、狭いお話に閉じ込められていて残念。モテしぐさで釣るだけの最近の月9よりは好感。高嶋政伸の往年の「姉さん!」に胸アツ。

◆「メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断」(フジテレビ系、火曜9時)吉田羊/相武紗季/高橋克典

★★

 あるトラウマで手術をできなくなった女性外科医が、病名診断部署「解析診断部」に転職して活躍。女ばかり7人の部署は、ケバい合コン系、ブサイク優等生、上昇志向おばさん、無愛想な一匹狼など型通りのチーム編成。ブランド品の自慢や足の引っ張り合いばかりで「患者の最後のとりで」という設定を忘れそう。登場人物が多すぎて収拾がつかず、急に病名ディスカッション。臨場感、スピード感の中でこそ生きる医療用語の応酬が空回りし、頭に入ってこない。ヒロインが魅力的ならオールOKだが、ヘッドハンティング自慢、アゴで指図、自分の行動のツケは部下に。「かっこいい吉田羊」の定義が、私とは違った。

TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の新垣結衣と星野源
TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の新垣結衣と星野源

◆「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系、火曜10時)新垣結衣/星野源

★★★★

 家事代行サービスを始めた無職女性と、時間を有効活用したい独身男が、雇用主と従業員という形で契約結婚。実は出会った時から恋に落ちている2人の、遠回りなラブストーリー。みずみずしい節度でハートをつかむ胸キュンな展開といい、先が気になる余韻といい、新垣結衣×脚本野木亜紀子の「掟上今日子の備忘録」コンビの品質保証。誰に言われなくてもマイスリッパを持参してきたシーンでこのヒロインが好きになったし、両家の親、遊びに来たがる会社同僚などの緊急事態に遭遇するたび、意外な人柄が顔を出す星野源の草食男子も魅力的。それだけに、ヒロインの長い妄想シーンで流れが止まるのが苦手。ドラマが原作通りである必要はない派なので、あの要素は省いてすっきり見たかった。

◆「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系、水曜10時)石原さとみ/菅田将暉

★★★★

 ファッション誌ではなく、原稿の誤字脱字や事実誤認をチェックする校閲部に配属されたおしゃれ番長のめげない奮闘。KYな自信家というウザキャラだが、ブーブー言いながらも実験体質でぐいぐいフィールドワーク。根っこのまじめさ、伸びしろがよく分かるので、勇み足の大失敗と、何かをつかんで成長する若さがすがすがしい。同じく出版社が舞台だった「重版出来!」にラブコメ要素を加えた感じ。仕事と恋をきちんとストーリーの両輪として描ける脚本は貴重。校閲部の面々も魅力的。「好きだからできることもある」の3話は、地味キャラ江口のりこ先輩のかっこよさに泣けた。同じ活字媒体なので「大きい文字ほど気付かない」とか、赤字あるあるが身に染みる。

フジテレビドラマ「Chef~三ツ星の給食」の完成披露試写会
フジテレビドラマ「Chef~三ツ星の給食」の完成披露試写会

◆「Chef~三ツ星の給食~」(フジテレビ系、木曜10時)天海祐希/小泉孝太郎

★★

 集団食中毒の陰謀で3つ星レストランを追われた一流女性シェフが、給食の調理師から再起をかける。転落からの逆転ものは普通に作れば面白いはずだが、高飛車ヒロインの自業自得な導入で感情移入できなかった。失敗や、新天地での経験に学んで進化するパワフルなストーリーがまだ出てこない…。「私は三つ星シェフなのよ」「私の料理は最高においしいの」という独り相撲で、カタルシスのポイントが分からなかった。こびないタフさの天海祐希ワールドがプロットのすべてでは、天海の負担が大きすぎる。遠藤憲一がいまだに給食室で埋没しているもったいなさや、テレビプロデューサー役の友近が紀香コントみたいなのも、初期設定の問題かも。

日本テレビ系ドラマ「黒い十人の女」(C)ytv
日本テレビ系ドラマ「黒い十人の女」(C)ytv

◆「黒い十人の女」(日本テレビ系、木曜11時59分)船越英一郎/成海璃子/水野美紀

★★★★★

 中年テレビマンをめぐる、妻と愛人9人のバトル。55年前の市川崑監督作品を、脚本バカリズムが大胆改造。「何様だよ!」「愛人だよ!」から始まる成海璃子、水野美紀、佐藤仁美の喫茶店バトルに1話から爆笑。カフェオレまみれの地獄絵図→隣の客がバースデーケーキ→とりあえず拍手→しらけて3人でお茶。女のムダな適応力、分刻みで気分が変わる生態をよく知っていて、あんかけそばぶっかけられてもゲテモノドラマの一線を越えない信頼のストーリーに、ゲラゲラ笑ってぼろぼろ泣ける。心の声、画面への落書き、急なカメラ目線、LINEスタンプなどのスキルがすべらないバカリズム印。女優に吐かせるタレント論にも共感した。女性芸人さん起用でなく、うまい女優陣で生き生きと見せる制作陣に志を感じる。

TBS系ドラマ「砂の塔 知りすぎた隣人」の菅野美穂(左)、松嶋菜々子
TBS系ドラマ「砂の塔 知りすぎた隣人」の菅野美穂(左)、松嶋菜々子

◆「砂の塔~知りすぎた隣人~」(TBS系、金曜10時)菅野美穂/松嶋菜々子

★★★

 悪意と虚栄心が渦巻くタワーマンションに引っ越してきた菅野美穂一家が、ボスママを頂点とするママ友社会で必死の世渡り。いつものママ友カーストものだが、今回はハーメルンの笛吹きのような連続幼児失踪事件が同時進行。頼りになる隣人を装い、実はそれぞれの家を盗撮盗聴している謎の美女、松嶋菜々子という、シャロン・ストーンの「硝子の塔」っぽい要素で見せてくれる。やばい松嶋菜々子の方がサスペンスとして歯応えありだが、カマトト主人公がママ友集団から嫌がらせとか、高層階が低層階を見下したりというご近所トラブルでまとまりがち。バカ騒ぎ系が多い今期の中では貴重なシリアス系なので、ミステリー増量希望。イエモンの主題歌と横山克のBGMで、音楽は今期ぶっちぎり。

◆「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日系、金曜11時15分)松岡昌宏/清水富美加

★★★★

 ぶっ飛び度今期イチ。特A級の家事スキルを持つ女装の家政夫が、訪問先の家庭を壊して再生する大迷惑ヒューマンドラマ。元祖「家政婦は見た」のテレ朝が「家政婦のミタ」の鉄仮面キャラをパロって、TOKIO松岡昌宏が無茶な女装でフルスイング。飛びかかる番犬ドーベルマンを掌底で制する、ただ者ではない登場シーンにわくわく。のぞき見、尾行、ゴミあさり、解錠テクなど何でもありの隠密行動で、家族のがんこな汚れをあぶり出す。食器用洗剤とオキシドールでシミ抜きなどの豆知識も随所に。魔球、変化球、危険球でのけぞらせ、最後は家事で幸せのタネを伝授する直球で総仕上げ。金曜の夜にサクッと楽しいB級快作。オリジナルに敬意を表して4。

◆「THE LAST COP/ラストコップ」(日本テレビ系、土曜9時)唐沢寿明/窪田正孝

★★★

 30年の眠りから覚めて復職した昭和のアクション系デカと、今どきの草食系刑事のドタバタ警察ドラマ。芸達者な唐沢寿明が田中邦衛ものまねやピンクの電話などほぼ1時間全力でふざけ、昭和ネタを知らない窪田正孝がハイテンションでキレる、という一連のくだり。どつき漫才や大声コント、コスプレ芸など視覚的な笑いが好きな人にはおすすめ。30年前や数日前など、後戻りが多くて話が前へ進まないドラマは個人的に苦手。ドタバタ増量より、そちらのテンポアップを希望。「あぶない刑事」のような、ナンセンスとハイセンスのカオスにはあと1歩な感じ。制作現場は楽しそう。キッズ&ファミリー層向け枠なので、その期待には応えている。

TBS系日曜劇場「IQ246~華麗なる事件簿~」の試写会を行う織田裕二(中央)ら
TBS系日曜劇場「IQ246~華麗なる事件簿~」の試写会を行う織田裕二(中央)ら

◆「IQ246~華麗なる事件簿~」(TBS系、日曜9時)織田裕二/土屋太鳳/ディーン・フジオカ

★★★★★

 IQ246の頭脳を持つ名門貴族、法門寺沙羅駆(ほうもんじ・しゃらく)が難事件に挑む。「踊る大捜査線」の織田裕二が、変人紳士として頭脳派推理。浮世離れ感を変声と変顔で表現していて、喪黒福造&ぶらり途中下車みたいな口調と、Mrビーンのような顔芸で「興味なーし!」「んーっ!?」。顔がクドい人は、このくらい濃くやっちゃって全然OK。名前に加え、一目見てその人を言い当てる観察眼など、海外ドラマ「シャーロック」の濃度が一目瞭然。原作の有名なトリックや、ポアロ、古畑任三郎、杉下右京などあらゆる要素も混ぜ込んで、きちんと織田裕二ワールドとして着地している研究勝ち。土屋太鳳のワトソンも笑えるし、執事ディーン・フジオカの使える男ぶりに助演男優賞。

◆「キャリア~掟破りの警察署長~」(フジテレビ系、日曜9時)玉木宏/高嶋政宏

★★★

 現代版、遠山の金さん。署長なのにやたらと現場に出たがる遠山金志郎が、しらばっくれる悪人に「警視正 北町署署長」の警察手帳を見せつけて一件落着させるまでの一連のくだり。朝ドラ「あさが来た」の新次郎さんのような、ひょうひょうと優秀なキャラクターが今回も魅力的だが、金さん以外の魅力がぼんやり。落書き消しから始める割れ窓理論とか、事件もよくある感じだった。ノンキャリを無能集団に描きすぎて、警察ものとしてスピード感がないのもさみしい。こちらは金さんに感情移入して見ているので、怒鳴りキャラの高嶋政宏に怒鳴られ続けて心臓に悪い。

◆「レンタル救世主」(日本テレビ系、日曜10時半)沢村一樹/藤井流星/志田未来

★★

 49歳無職の男が、命がけの便利屋「レンタル救世主」に再就職。あなただけのヒーロー参上を旗印に、赤、青、黄、桃など色別の個性がそろう戦隊ヒーローのフォーマット。発想は面白いのに、男も女もウザキャラばかりで戦隊のまとまりが薄め。コメディーなのに説教が長い変拍子、主役の赤レンジャーが最も魅力薄な仕上がりなど、作品の動線が混乱していて、チャレンジが空回りして見える。「やりすぎの善意はもはや悪意」「俺を助けると想って、助けてと叫んでくれ」などの短いせりふはさえているし、初代タイガーマスクの空中戦みたいな藤井流星の超絶アクションも胸躍るだけに、長い泣き落としはご勘弁。うまい俳優をそろえたのだから、突然の日本語ラップなどでなく、直球のヒューマンコメディーで見たかった。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)