21日に膵臓(すいぞう)がんのため59歳で亡くなった歌舞伎俳優坂東三津五郎さんの長男坂東巳之助(25)が23日、東京・銀座の歌舞伎座で会見し、「父の残したものを守っていきたい」と芸の継承を誓った。次女の舞踊家守田幸奈さん(28)が父の死の直前に結婚し、1997年(平9)に離婚した元妻の女優寿ひずる(60)とも病室で再会したことを明かした。

 昼の部の舞台を終えた巳之助は家族再会の状況を明かした。

 2月17日、三津五郎さんの容体が悪化し、寿から「会いたい」と連絡があった。次女幸奈さんは容体の急変で結婚を早めて婚姻届を提出。18日に夫とともに病室で結婚報告した際に、寿も同席して再会した。「父は『本当におめでとう』と祝福し、十数年ぶりに家族で写真を撮りました」。

 三津五郎さんは83年に結婚した寿と3人の子供をもうけたが、元フジテレビアナウンサーの近藤サト(46)との不倫が発覚し、97年に離婚。98年に近藤と再婚した当時は「略奪婚」と騒がれた。しかし、死の直前の再会で確執も消え、寿は所属事務所を通じ、「子供たちの配慮で、きちんとお別れさせていただくこともできました」と感謝した。

 臨終には大阪から帰京した巳之助、2人の姉、2人の叔母の5人が立ち会った。「僕を待ってくれていた。安らかに眠るように息を引き取った」。昨年9月、がんの肺への転移が分かったことも明かし、「普段と変わらなかった。最後は悟っていたように思う。自分の台本を僕に預け、後輩に渡してほしいと言っていた。苦しかったはずだが、弱音は吐かなかった」。

 1月末にインフルエンザに肺炎も併発し入院。2月7、8日に外出許可を得て、家元を務める坂東流の名取試験に立ち会った。「僕に最後に見せたかった姿のような気がする。父が残したものの大きさは痛感しているし、守っていきたい」。父に反抗して歌舞伎から離れた時期もあった。「変な父でした。面白い人だったし、くだらないことも言ってた。歌舞伎に戻りたいと言った時、『本当にそれでいいのか』と無理強いしなかった。父の優しさを感じました」。

 死の発表が遅れた理由は「父が大事にした舞踊協会の公演が22日まであり、幕が下りるのを待った」と説明した。その上で「役者ながら学者気質があって、もっと教わりたかった。臨終の時に『お疲れさま。ありがとうございました』と伝えました。ひつぎには好きなお城の本を入れたいです」と、弟子、息子としての思いを口にした。

 ◆略奪婚騒動 三津五郎さんと近藤は96年に写真誌で不倫と報じられた。当時、妻の寿とは別居中で、翌97年に離婚が成立。親権は三津五郎さんにあったが、養育権を持つ寿が3人の子供と同居した。98年11月に近藤と再婚。略奪婚と騒がれたが、1年7カ月後に離婚。近藤は会見で「子供を強く望んだが、だれかの意思によって阻まれた」と話した。その後、近藤は再婚して男児を出産。三津五郎さんの訃報を受け、「歌舞伎俳優として日本舞踊家として、ご尊敬申し上げていました」とコメント。