父の故中村勘三郎さん(享年57)の志を継ぎ、今年4月に「平成中村座」を復活させた中村勘九郎(33)が30日、大阪市内で、父の死去後初となる「大阪平成中村座」を発表し、亡き父への思いを語った。

 公演は10月25日~11月26日、大阪城西の丸庭園内特設劇場で、大坂の陣400年記念として行われる。10年秋以来、5年ぶり3度目の大阪公演。

 「あの小屋に続く、大阪城の道のり。父と歩いた道をまた通るのか、と思うと…嫌…ですね。今でも、やっぱり、父が入っていた楽屋とかだと、思いだしちゃいますし。大阪城を歩いて、毎日、何かを感じるんじゃないでしょうか」

 平成中村座は00年、勘三郎さんが、江戸時代の芝居小屋にならい仮設劇場を設け、当時の雰囲気を楽しんでもらおうとして、東京・浅草でスタート。02年には大阪、04年には米国、06年には名古屋と地域を拡大していった。

 大阪では3度目だった10年10~11月、今回と同じく大阪城内の庭園で上演したが、勘三郎さんはその直後に体調を崩した。特発性両側性感音難聴で休養し、いったん復活したものの、その後に食道がんが判明し、闘病の末、12年12月に亡くなった。

 勘九郎は当時の父の様子について「楽屋入りするまでの道を歩いていると、父が『なんか、おかしいんだよ。冷たいだろ? 手が』なんて言って、普段なら、みんなでお酒飲みに行くのに、あのときは行かなくて」。勘三郎さんは、体調の異変に気付いていたといい、勘九郎も「ずっと、おかしかった」と振り返った。

 途中、勘三郎さんは病院で検査を受け「血液検査で男性ホルモンが低下してるってさ。おい! 笑い事じゃないんだよ。ホルモンがないんだ、ホルモンが」と笑わせていたといい、周囲への気づかいを欠かさない父の姿に感服もしていた。

 そんな思い出の地で、父が亡くなって初めて復活させる「大阪平成中村座」。ちょうど、大坂の陣400年と重なり、勘九郎は昼夜ともに、大阪城ゆかりの豊臣秀吉を演じる。

 昼の部では「三升猿曲舞(しかくばしらさるのくせまい)」で、木下藤吉郎にふんして舞い、夜の部は、谷崎潤一郎の小説をもとにした「盲目物語」を上演。「盲目-」は、勘三郎さんが、織田信長の妹・お市を思う弥市と、同じくお市に思いを寄せる豊臣秀吉の2役を早替わりで演じ分け、当たり役とした作品。

 父のはまり役を継ぐ勘九郎は「このお芝居は、子どものころに見て、泣いた記憶があり、やりたかった作品です。ただ、太閤さんゆかりの大阪城ですし、うれしいけど、プレッシャーもありますね」と話した。