放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は17日、都内で会見を行い、耳が聞こえない作曲家として活動していた佐村河内守氏の作曲者偽装問題を取り上げたTBS系「アッコにおまかせ!」について、「名誉毀損(きそん)に該当すると言わざるをえない」として、人権侵害と判断したことを発表した。

 佐村河内氏が、昨年8月26日付で人権侵害の申立書を同委員会に提出していた。

 対象の番組は、佐村河内氏の謝罪会見が行われた2日後の昨年3月9日に放送された。佐村河内氏の謝罪会見を取材し、その内容をまとめたVTRとともにスタジオトークを生放送で展開していた。同委員会は、<1>事実をありのままに伝えること<2>専門性の高い情報を正確に伝えること<3>出演者への事前説明の努力<4>障害に触れる際の配慮の必要性の4点で、放送倫理上の問題があったとした。

 会見では、坂井真委員長が委員会決定の趣旨を説明。その後曽我部真裕委員からは「人権侵害という異例の判断で、放送局側からは『厳しいのではないか』という意見が出ることが推測される」とした上で、「いくら疑惑があったとしても、勢いで何を言ってもいいわけではない。客観的な証拠や裏付けがあって、言える範囲のことを言っていただくということがあると思う」と説明した。

 委員会の中でも意見が割れ、少数意見を持った委員も2人出席する異例の判断となった。会見に出席したテレビ局の記者らからは「番組制作の現場が萎縮してしまうのではないか」などといった指摘もあった。これを受けて、坂井委員長は「現場が萎縮していいとは思っていない。表現の自由も、報道される方の人権も、同じように重いと思っています。事案ごとに淡々と判断していくしかない。委員会がどうしてこういう判断をしたんだろうかということをあらためて考えていただけたら」と回答。今回の判断については「事実認定は正確にしてください、ということです。事実として分かっていることはここまで、論評としてはここまで、というようにしてもらえば問題なかったのではないか」と補足した。

 また同様に佐村河内氏が人権侵害の申立書を委員会に提出していたフジテレビ系「IPPONグランプリ」(昨年5月24日放送)についての見解も発表され、こちらは「問題なし」と判断された。同番組では佐村河内氏をモデルにした作曲家を題材にして、お笑いタレントたちが大喜利を繰り広げていたが、委員会は「正当な社会的関心の対象となっている申立人個人に対する許容限度の範囲内での風刺」とした。