<日曜日のヒーロー>

 これほど言論の自由を体現し、謳歌(おうか)してきた人はいないだろう。タレント大橋巨泉(80)。昨年11月に中咽頭がんと診断され、手術と放射線治療を経て戻ってきた。「死に損なったから、もう少し言いたいことを言おうと思う」。好きなことが言えない風潮やテレビの力の低下をうれう。この人の言葉は、まだまだ必要である。

 自宅を訪ねて取材した。丸顔は面長になり、ずいぶんとやせていた。

 「今の俺にとって、一番取り戻したいのは体重なんだ。手術の前日(昨年11月19日)に病院で量った時は72キロ。一番落ちたのは56キロ。今、60キロ超えるまで戻ったが、やせるのってこんなに簡単なんだと思った」

 手術で右のあごの後ろ側を切り、がんが転移していたリンパ節を取り除いた。へんとうにできているがんの腫瘍は放射線を照射して殺す。放射線治療は昨年12月10日から2月3日まで35回行った。副作用で口の中の右半分は口内炎になった。水を飲むのも痛い。栄養を心配した妻寿々子さん(65)の作るスープを口の左半分を使って飲んでいた。固形物は2カ月食べられなかった。

 「痛み止めのモルヒネを飲むと3分か5分で痛みが無くなるんだけど、余計食べられなくなる。麻薬患者が食べたくないってのがわかった(笑い)。後はごろんと横になって(古今亭)志ん朝さんのCDやジャズ聴いて、自分の昔の番組を見て、知らぬ間に寝てるんだって」

 1日20時間以上寝ていた時もある。

 「ハッと気が付いたらこんなになっていた。筋肉全部取れちゃってる。皮下脂肪も全部取れた。残ったのは骨と皮。大腿(だいたい)四頭筋が落ち、こんなに細い。半分になったよ」