プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月28日付紙面を振り返ります。2012年の1面(東京版)は前田敦子のAKB48卒業でした。

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 前田敦子(21)が27日、笑顔でAKB48を卒業した。東京・秋葉原のAKB48劇場で行われた卒業公演。05年12月8日の劇場オープン公演から2455日目のゴールも、250人収容の同劇場で迎えた。共演メンバーたちから涙の送別メッセージをもらったが、涙をこらえ、やさしいほほ笑みで1人1人を抱きしめた。アイドルとして、こだわってきた笑顔を貫き通した最後だった。前田は今日28日から女優の道に進み、AKB48は第2章に入る。

 「今日は笑顔で(お別れを)言えそうです」

 前田は、27人の出演メンバーと250人の観客を見渡してほほ笑むと、最後のスピーチを切り出した。

 「私はこの劇場が大好き。メンバーや皆さんが大好きです。長かったか短かったかは分かりませんが、最高の7年間でした。皆さん本当にありがとうございました」

 ファンが、あっちゃんコールで応えると、瞳がみるみる潤んできたが、深々とおじぎをして、涙をこらえた。勢いよく顔を上げると、優しく温かい笑顔で、前を向いた。

 前夜、4万8000人の前で「たくさん泣いた」だけに、もう、湿っぽい別れにはしたくなかった。熱いあっちゃんコールも、自然と収まるのを待って「おっ、(ファンのみんなで勝手に)締めてくれた~」と、おとぼけ発言で笑わせた。メンバーがMCで、3日前のチーム替え(組閣)で決まった新たな所属先を報告した際には、「私は卒業します」と、ボケてみせた。

 笑顔と涙には、こだわりがある。7月10日の生誕祭では「自分のことでみんなが泣くと、逆に涙が出てこない」と明かしていた。「あまり、自分だけが目立ちたくない…」。引っ込み思案な性格の名残だった。でも、この日は少し違った。自分との別れを惜しんでくれる仲間たちが、純粋にうれしかった。だからこそ、高橋みなみ(21)に「いつも敦子が1人の仕事のときは、心配だった。でも、本当はびっくりするくらい強いし、卒業するからには成功してほしい」と言われ、ますます泣くわけにはいかなかった。送別スピーチで仲間たちが号泣しても、涙をこらえ続けた。独り立ちした姿で安心してもらいたいという、決意の表れだった。

 終演後、劇場ロビーのメンバーの写真が並ぶ壁から、自分の額を取り外し、息をついた。「これでちゃんと卒業したって感じがします」。やっぱり、笑顔だ。「幸せな4日間でした。笑顔で終わりたかったし、終われたと思います。ただ、楽屋裏に戻ったときだけは、やっぱり涙が止まらなかったですけれど」と、照れ笑いした。「すごくスッキリしました」。一片の悔いもなく、幸せに包まれたフィナーレだった。

 05年12月8日、記念すべき初日公演の自己紹介で、前田はこうあいさつしていた。「私には笑顔しか取りえがないので、笑顔で頑張ります !! 」。歌も踊りも苦手だった14歳の前田にとって、アイドルとしての最初の矜持(きょうじ)は、笑顔だった。そんな地味で内気だった少女は今、立派なスーパーアイドルとなり、卒業した。

※記録や表記は当時のもの