新人記者として過ごした1年間で、印象に残り、戒めとしている言葉があります。

 トラブルを起こした某アーティストのライブ終演後、本人を直撃するため、出待ちした時のことです。

 会場に到着すると、楽屋通用口前の歩道に、既に30人ほどの取材陣が集まっていました。

 ロープで仕切られた車道寄りの歩道には、メンバーの出待ちをするファンが集まり、歩道に陣取る取材陣の肩越しに、通用口を見つめていました。

 何の疑問も抱かず、取材陣の列に入った時、ファンの列からこんな言葉が聞こえてきました。

 「マスコミ、死ねよ!」

 胸にグサッと刺さる言葉でした。

 好きなアーティストを一目見ようと出待ちをしているのに、大きな機材を持った取材陣の後ろで見るよう言われたら、嫌な気持ちになることくらい、よく分かります。少々言葉がきついですが、「死ねよ」と言いたくもなるでしょう。

 なぜファンより取材陣が優先されるのか。その場で聞かれていたら、答えに詰まっていたことでしょう。

 ファンにとってもそうですが、私たち取材陣にとっても、渦中にいる本人の肉声を直接聞くことができる貴重な場なのです。

 ファンの中には、そのアーティストが起こしたトラブルについて、本人が何を言うのか、気にしている人だっているでしょう。そんなトラブルなど関係なく応援したいというファンにとっては必要ないことかも知れませんが、私たちマスコミは、気にしている人に代わって、取材を通して本人の言葉を伝えるという役割も担っているのです。そのため、できるだけ本人に近い場所に陣取り、質問を投げ、声を拾う必要があるのです。良心も痛みますが、残念ながら「ファンの皆さん、前へどうぞ」と譲るわけにはいかないのです。

 とはいえ、お互い気持ちよく過ごしたいもの。今振り返ると、場所を分けるなり、何かできたことがあったと思います。

 またこのような機会があれば「死ね」と思うくらい不愉快な思いをするファンが現れないよう、工夫をしてみたいなと思います。