投資会社「クオンタム・エンターテイメント」(東京)は30日、吉本興業株の株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。成立で吉本は、放送局との関係強化、非上場化による経営のスピードアップに道筋をつけたが、今後も情報開示姿勢を保つことなど課題の克服も必要だ。

 TOBは、9月14日から10月29日まで実施。応募は、成立基準だった発行済み株式数(吉本興業所有の自己株式を除く)の7割を超え、約9割(約3300万株)。クオンタムは手続きを経て、残る株式を買い取り、吉本を完全子会社化する。吉本株は東京、大阪両証券取引所の上場が廃止される見通しだ。完全子会社化後に吉本とクオンタムは合併する。

 クオンタムには、在京民放5局などの出資が決まっており、今後新たな出資社も加える計画。インターネットの隆盛などで放送業界は変革期を迎えている。関係強化は、お笑いコンテンツを確保できる放送局側と、存在感が高まる吉本側双方にメリットがある。

 また、吉本は今後、携帯電話向けサービスやアジアを中心とした海外への進出を加速する方針だ。新たな展開には経営のスピードアップが不可欠となる。その際、非上場化で多数の一般株主の意向を気にする必要がなくなることのメリットは大きい。また、民放などが大株主になることで創業家一族の影響力も相対的に低下する。

 だが、人気タレントを抱える企業として、上場企業並みの情報開示の姿勢を維持できるかが焦点だ。19日には、株主が「TOBに伴う全株取得で、一方的に地位を奪うのは不当」だと提訴。関係者は「非上場化で、皆に愛される『お笑い』企業の実情が見えにくくなるのは確実」と危ぶむ。

 [2009年10月30日19時48分]ソーシャルブックマーク