「白い巨塔」や「大地の子」「沈まぬ太陽」などスケールの大きな社会派小説で知られる人気作家、山崎豊子(やまさき・とよこ、本名杉本豊子=すぎもと・とよこ)さんが29日午前、死去した。88歳。大阪市出身。葬儀・告別式は近親者のみで行う。

 1944年、京都女子専門学校(現京都女子大)を卒業し、毎日新聞社入社。学芸部で、後に作家となった井上靖さんの下で働くうち刺激を受け、57年に大阪・船場の生家の昆布商をモデルにした「暖簾(のれん)」を刊行。翌年、吉本興業創業者の吉本せいをモデルに大阪女のど根性を描く「花のれん」で直木賞を受けた。

 「ぼんち」「女の勲章」「女系家族」など「船場もの」を経て社会派小説に移り、65年に刊行した「白い巨塔」では医学界が抱える問題にメスを入れた。

 その後も政・官・財界の閨閥(けいばつ)を描く「華麗なる一族」をはじめ、シベリア抑留がテーマの「不毛地帯」や日系2世が主人公の「二つの祖国」などを発表。日航ジャンボ機墜落事故に着想を得て航空会社の暗部を描いた「沈まぬ太陽」もベストセラーになった。

 綿密な取材や資料調べは有名だったが、一方で資料の引用方法をめぐり盗作を指摘されたこともあった。中国残留孤児の苦難を描いた「大地の子」の取材をきっかけに、帰国した戦争孤児家庭の子どもたちに奨学金を贈る「山崎豊子文化財団」を93年、設立した。

 2001年ごろから両足や手の指がまひし執筆を中断したこともあったが、09年に外務省機密漏えい事件に材を得た「運命の人」全4巻を発表。ことし8月から週刊新潮で「約束の海」の連載を始めたばかりだった。