新宿・歌舞伎町の映画館「新宿ミラノ座」が今月31日に閉館し、58年の歴史に幕を下ろす。1000を超える座席数と巨大スクリーンを持つ日本最大級の映画館として一時代を築いたが、複数のスクリーンを備えたシネコンが主流となる中、観客減で役割を終えた。西新宿に生まれ、ミラノ座で山のように映画を見た浅草キッド玉袋筋太郎(47)に思い出を聞いた。*********

 -閉館について

 玉袋

 いよいよ本当に、すべてなくなってしまうんだなと。新宿プラザ劇場(08年閉館)もないし。噴水広場をはさんでがっぷり組むミラノ座とプラザは新宿の映画館の両横綱だった。ミラノ座はなんといってもあの大きさだよね。1000超えの座席数と巨大スクリーン。豪華客船で映画見ているようなグレード感があった。俺んちからミラノ座の裏側の「ただいま上映中」みたいな看板が見えたのも誇りだった。グランドオデヲンとか新宿アカデミーあたりの関脇レベルも含めて、あのころの新宿は映画のポスターや看板だらけで、忘れられない光景です。

 -最初の映画体験はミラノ座ですか

 玉袋

 そう。「ジョーズ」(75〜76年)。お正月に家族で見た。船の中からゴボゴボッと死体が出てくるシーンで姉ちゃんが泣きだしちゃって(笑い)。「すげぇの見たな」って興奮してみんなで小滝橋通りのちゃんこ屋さん行ってさ。(上映リストを見ながら)「メテオ」(79年)も懐かしい。ミラノ座が「もしメテオ(隕石=いんせき)が来たらどうする」ってアイデア募集していて、子供も大人もイラスト書いて一面に張ってあって。「宇宙戦艦ヤマトで打ち返す」とか(笑い)。活気があったよね。小学校高学年から中学、高校くらいまでの作品はほとんど見てる。

 -忘れられない作品は

 玉袋

 「E.T」ですね。映画は同級生の金持ちがおごってくれるので、いつも仲間4人で見ていたんだけど、初日一番乗りじゃないと気が済まないから劇場の前で徹夜です。ミラノ座の「E.T」を最初に見たのは俺ですよ(胸を張る)。冬だから寒い上に、シンナーやってる不良にからまれて。「E.T」の記憶といったらあの眠さ、寒さ、怖さですよ(笑い)。見終わったらゲーセン行って、夜はまた銭湯に集まって映画の話して。新宿に住んでいても、映画館に行くのはわくわくする冒険で、そういうの全部が僕にとっての映画だった。

 -シネコン化の流れに、ミラノ座も勝てなかった

 玉袋

 仕方ないよね。シネコンは便利だし音響もいいし座席指定だし。でも、どこ行っても同じ雰囲気、同じにおいだから俺はダメで。画一的すぎて、後になって「当時の空気」を思い出せないんだよ。ウチのせがれはシネコン世代だけど、映画館の大スクリーンというものを体感してほしくて「ハリポタ」とか一緒に見に行きましたもん。俺がガキのころ「スター・ウォーズ」を見たプラザで、大きくなったせがれとエピソード3を見た時は「子供とスター・ウォーズを同じ劇場で見れるとは」と号泣しましたね。地域の大劇場ならではの感動ですよ。

 -劇場ごとに個性がありました

 玉袋

 「スター・ウォーズ」なんか、プラザで見た後でテアトルの違う雰囲気で見たり。プラザもミラノ座も、当時のパンフレットは館名が印刷されていて、宝物ですよ。特別鑑賞券買うとおみやげがついていたり。スーパーマンのボールペンとか。

 -20日〜31日までのサヨナラ興行でいよいよ終わりです

 玉袋

 すごいラインアップだよね。「タワーリング・インフェルノ」「戦場のメリークリスマス」「荒野の七人」「銀河鉄道999」「アラビアのロレンス」…。「E.T」は20周年特別版なんだね。「セーラー服と機関銃」「時をかける少女」「探偵物語」の23日すごいなあ。「ジョーズ」がないのはおジョーズじゃないけど。

 -ミラノ座に声を掛けるとしたら

 玉袋

 58年か。ご苦労さん、ありがとう、それしかないよね。高倉健さんも菅原文太さんも亡くなって、ミラノ座も終わる。いろいろ象徴的だと思う。映画に何かプレミアム感を与えてくれた劇場だった。こんなことになるならもっと見に行けば良かった。老朽化は確かにそうだけど、僕にとっては「ニュー・シネマ・パラダイス」みたいな、ピッカピカに光ってる劇場ですよ。(聞き手・梅田恵子)

 ◆新宿ミラノ座

 現新宿ミラノ1(1064席)。1956年12月、新宿区歌舞伎町の新宿東急文化会館に「新宿東急(現新宿ミラノ2)」とともにオープン。06年に名称を「新宿ミラノ1」に変更。58年間の上映本数674。同じ建物にある「ミラノ2」「ミラノ3」「シネマスクエアとうきゅう」も同時に閉館する。12月20日〜31日まで、サヨナラ興行「新宿ミラノ座より愛を込めて〜LAST

 SHOW」を開催。「荒野の七人」「アラビアのロレンス」「タワーリング・インフェルノ」「銀河鉄道999」「新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを君に」「E.T

 20周年記念特別版」など24作品が上映される。当日券は500円均一。