一緒にマンションの部屋にいて死亡した女性に合成麻薬MDMAを譲り渡したとして、警視庁捜査1課は4日、麻薬取締法違反の疑いで、俳優押尾学容疑者(31)の逮捕状を取った。押尾容疑者は11月、MDMAを使用したとして同法違反の罪で執行猶予付きの有罪判決を受け、確定した。使用罪の公判では「女性からもらった」と供述したが、捜査1課は女性以外の第3者から入手し、部屋に持ち込んだと判断した。凶悪犯罪を扱う捜査1課が逮捕に踏み切ったことで、同容疑者が死亡女性の保護責任者遺棄容疑で立件される可能性が高まった。

 警視庁捜査1課によると、押尾容疑者は急死した女性以外の第3者からMDMAを入手し8月2日、東京・港区のマンションの部屋に持ち込み、亡くなった飲食店従業員田中香織さん(30)に渡した疑いが持たれている。2人はこの部屋でMDMAを服用した。また、田中さんの死亡についても、田中さんの異変直後に119番通報しなかったとして保護責任者遺棄容疑で捜査。押尾容疑者にMDMAを譲渡したとして麻薬取締法違反容疑で知人のネット販売業者と、死亡した女性の携帯電話を捨てたとして証拠隠滅容疑で元マネジャーの逮捕状を取った。司法解剖の結果、田中さんの遺体からは相当量のMDMAが検出されており、死因は薬物中毒とみられる。

 関係者によると、押尾容疑者は判決後、警視庁の任意の事情聴取に1度しか応じていなかったという。その後は事情聴取を拒む姿勢を見せたため、捜査の進展のためには逮捕が必要と判断したようだ。

 押尾容疑者は同法違反(使用)罪の公判で、「田中さんから1錠もらい、軽い気持ちで飲んだ」と供述したが、警視庁捜査1課は、2人が交わした薬物使用をうかがわせるようなメールの内容などから疑問視していた。

 「来たらすぐいる?」。公判で検察側は、押尾容疑者が田中さんに携帯電話で送った最後のメールを明らかにした。検察側にメールの意味を問われた押尾容疑者は「クスリのことではない」と説明。同容疑者本人が携行していたのではないかと追及されると「違います」と否定した。

 捜査1課は、過去に押尾容疑者が国内で薬物と接点がなかったかどうか、周辺や交友関係を洗い出し、MDMAは同容疑者が携行し、田中さんに手渡したと判断した。

 押尾容疑者は、同公判で田中さんが、死亡した日に3回、MDMAを飲んだのを見たとも述べた。過去にも田中さんが薬物を使っているのを見たとし「体に悪いから止めた」などと話し、自分が所有するMDMAではなかったことを主張。自ら田中さんに勧めたこともないとした。

 11月の判決は、懲役1年6月、執行猶予5年で、押尾容疑者がMDMAを1回服用したという事案だった。だが、裁判長は「法廷での説明は不自然」「およそ信用しがたい」などと厳しく言い放っていた。

 前回の逮捕は組対5課だったが、今回、捜査1課は判決後も、田中さんの死亡に至る経緯と押尾容疑者の行動に因果関係があったかどうか、保護責任者遺棄の疑いで捜査を進めてきた。当初は押尾容疑者が救急車を呼ぶなど適切な延命措置を怠ったことが、田中さんの死につながったと判断。田中さんは異変があってから1時間近く生存していたことも判明している。

 一方で、仮に早い段階で救急治療を受けていても、高い確率で救命できたかどうかの立証が困難との見方もあった。今回は捜査1課が逮捕状を取ったことで、警視庁が保護責任者遺棄容疑での立件にも自信があることがうかがわれる。

 [2009年12月5日9時23分

 紙面から]ソーシャルブックマーク