合成麻薬MDMAを飲んだ女性を死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われている俳優押尾学被告(32)の主張が7日、崩された。第3回公判が東京地裁で開かれ、2人の証人が出廷。同被告にMDMAを譲渡し服役中の泉田勇介受刑者(32)が、譲渡したMDMAは錠剤10錠と証言し、同受刑者から粉末を譲渡されたとする弁護側の主張と食い違った。押尾被告の知人男性も、女性が死亡した8月2日の午後6時43分に同被告から女性の意識がなくなったと訴える電話があったと証言。弁護側の死亡推定時刻午後6時との間にズレが生じた。

 MDMAの供給源となった泉田受刑者への証人尋問は、押尾被告と弁護人を真っ向から否定するものだった。同受刑者は昨年7月30日に、MDMAの入手を依頼され、翌31日に入手したと認めた上で、検察官からの「10という数字の単位は?」の問いに強い口調でこう返した。

 泉田受刑者

 錠。カプセルではなく、押し固めた固まりで丸い形。金額は3、4万だが、こういう形(逮捕)になったので無償。密売人じゃない。

 弁護側は泉田受刑者から譲渡されたMDMAは粉末で、同被告は昨年8月2日の事件当日に、亡くなった田中香織さん(享年30)に譲渡していないとし、錠剤10錠という検察側と対立していた。MDMA錠剤を持参した田中さんが、自らの意思で飲んで薬物セックスをしたとし、押尾被告は保護責任者ではないと主張したが、そこにひびが入った。

 押尾被告が所持していた違法薬物TFMPPについても、弁護側は泉田受刑者に譲渡されたと主張していたが、同受刑者は同被告が元所属事務所のチーフマネジャーを通じ米国から持ち込んだものと、検察側の主張通りの証言をした。さらに昨年7月31日に同被告に勧められ、ビタミン剤の容器に入ったTFMPPを違法薬物とは知らないまま飲み、記憶をなくしたと明かした。「押尾に『お前に飲ませたのが米国で手に入れた新種のエクスタシーだ』と言われた」と暴露した。

 続いて出廷した元国会議員のB氏も、弁護団の主張を覆した。B氏は事件当日の昨年8月2日、女性と中華料理店で会食を始めた同午後6時43分に、同被告から「連れの女、意識がないんですよ。やばいっすよ、やばいっすよ。オレ、もうこれでダメなんですよね」と電話が来たと証言。B氏は6時55分に119番通報するよう諭したが、同被告が通報した様子はなく、7時10分に「もういっちゃってる。死んじゃってる」と電話が来たと話した。

 弁護団は午後5時50分に田中さんに異変が生じ、6時ごろに急死した所見があり、救急車を呼んでも救命の可能性が低いと主張したが、B氏は6時43分の押尾被告からの電話を聞いて「『意識がない』と言ってるだけで死を想定できなかった」と話した。

 B氏はこの時、押尾被告と6回も電話で話したが、その中で「マネジャーも付け人も来ない」と繰り返すのを聞き「芸能人はマネジャーがいないと何も出来ないのか」と激怒し、119番するよう強く言ったと明かしたが、同被告はそれに応じなかったという。現実に救急車到着は現場に駆けつけた別の友人が通報した後の午後9時27分になった。同事件の重要な争点で不利な証言が出たことで、押尾被告はさらに厳しい状況に追い込まれた。

 [2010年9月8日8時28分

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