女優岸恵子(80)が、後期高齢者を迎える女性の恋愛と性に迫った小説「わりなき恋」(幻冬舎)が今日24日、出版される。岸にとって、10年ぶりの書き下ろし小説で、70歳を目前にした日本とパリを拠点にする女性ドキュメンタリー作家と、12歳下の大企業重役との5年を超える不倫愛が題材になっている。タイトルは、古今和歌集で詠まれた一節にもあるように「理屈や分別を超えて、どうしようもない恋」を意味する。

 早くに夫を亡くした女性は、海外を飛び回る男性と遠距離恋愛を続けていくうちに深い関係になっていく。ただし、十数年ぶりの性交は潤いが足りず、思うようにいかない。意を決して婦人科で治療を受ける場面なども描かれる。70代女性ならではのエピソードだが、男性にかかってくる電話やメールの内容、ささいな一言に、恋心は少女のように揺れ動いていく。

 女優歴60年以上、作家としても多くの著書があり、57年にフランス映画監督のイブ・シャンピ氏と結婚し、1女をもうけて75年に離婚。以降もパリに住み、作品の主人公と同様に日本とパリを行き来する岸が、赤裸々ともとれる同世代の恋愛小説に取り組むきっかけになったのは、幻冬舎の見城徹社長(61)との出会いだった。5年前、岸の半生を紹介するドキュメンタリーに、見城氏がコメンテーターとして出演して交流が生まれた。「決定的な小説を書きませんか」と依頼すると4年を費やし、322ページの長編小説を仕上げた。見城氏は「恋愛という男女の普遍の営みを、格調高くうたい上げた新しい時代の新しい文学。こんなに興奮して作業したのは久しぶりです」と話している。