名脇役として多くの映画やドラマに出演し、味わい深い演技で知られた俳優夏八木勲(なつやぎ・いさお、本名同じ)さんが11日午後、神奈川県内の自宅で死去した。73歳だった。関係者によると、昨年膵臓(すいぞう)がんが判明したという。抜群の存在感で作品を支えた名優は、闘病を公にすることなく仕事を続け、最後まで現役にこだわり続けた。

 関係者によると、夏八木さんは膵臓がんが見つかってからも、仕事のペースを緩めることはなかったという。今年も出演映画5作が公開予定。昨年10月期のフジテレビ系連続ドラマ「ゴーイング

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 ホーム」にもレギュラー出演するなど、精力的に現場に立ち続けた。

 今月2日、都内で行われた日本映画批評家大賞の授賞式は「ゴールデン・グローリー賞」を受賞していたが、風邪を理由に欠席し、まり子夫人が代理で出席した。夫人は「過分な賞をいただきました。好きなことを好きなようにやってきた賞で…。恐縮でございます」と夏八木さんのメッセージを代読した。今後の出演作も決定していたという。夏八木さん自身は余命を知っていたといい、生涯現役を貫いた。

 ドラマ、映画合わせて出演作は300本以上。現代劇、時代劇のジャンルを問わず幅広い役柄を演じ、映像界では欠かせない貴重な存在だった。

 慶大中退後に俳優座養成所に入所した。同期に原田芳雄さん、林隆三、地井武男さん、太地喜和子さんがおり、後に「花の15期生」と呼ばれた。俳優座養成所卒業後、66年映画「骨までしゃぶる」でデビューした。五社英雄監督にほれ込まれ、「鬼龍院花子の生涯」など同監督の大作に次々と起用された。70年代から80年代にかけて角川映画の大作にも出演。「白昼の死角」「戦国自衛隊」では、千葉真一に負けない筋肉美を披露しつつ、野性味あふれる演技で強烈な印象を与えた。

 近年は円熟味あふれる演技で、政財界の大物から主人公の祖父や父親など、重厚さや味わい深さを求められる役を演じた。キラリと光る存在感を放つ脇役が多かったが、原発事故を題材にした昨年の映画「希望の国」では久々に主演。絶望的な日々を送る酪農家を好演し、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど高く評価された。最近のインタビューでも「若い人たちとの仕事も面白い」と話すなど今後の活動に意欲を示すなど、現役へのこだわりを最後まで失っていなかった。

 ◆夏八木勲(なつやぎ・いさお)本名同じ。1939年(昭14)12月25日、東京都生まれ。慶大文学部仏文科在学中の60年に文学座付属演劇研究所に入所。その後、慶大中退し63年に俳優座養成所入所。66年卒業後、東映と契約して「骨までしゃぶる」で映画デビュー。同年「牙狼之介」で主演。68年東映を退社後、三島由紀夫主宰の劇団浪蔓劇場に参加。NHK大河ドラマにも出演。