11月28日に転移性肝がんによる肝不全のため81歳で亡くなった俳優菅原文太さんが、亡くなる40日前に「最後の対談」をしていたことが18日、分かった。10年から小学館のPR誌「本の窓」で各界著名人と対談したが、10月18日に発酵学者の小泉武夫さんと対談を行っており、同誌1月号(明日20日発売)の追悼特集に掲載される。

 亡くなる40日前に行われた小泉武夫さんとの対談は、2時間を超えた。菅原さんはトイレ休憩に立つぐらいで、疲れた様子も見せなかったという。対談スタートから立ち会っている「本の窓」の岡靖司編集長(53)は「普段と変わった様子はなく、とても元気だった。体調は悪いとは思わなかった」と話す。11月19日にも対談を予定したが、数日前に菅原さんの家族から「転んでけがをした」と連絡があり、延期した。岡編集長は「亡くなったと聞き、本当に驚きました」。

 菅原さんが人選にあたり、ジャーナリスト鳥越俊太郎さん、イラストレーター黒田征太郎さんら35人と対談した。晩年に関心を抱いた農業、原発、憲法の問題について本音で語ってきた。最後となった小泉さんとの対談で菅原さんは「農業が変になってしまった理由は1つ。日本人が地べたに足をつけて暮らさなくなったこと」と嘆き、「『書を捨てよ、町へ出よう』と寺山修司は高度成長期まっさかりの日本で言ったが、オレは『書を持って地方に戻ろう』と言いたいね。政治家や官僚の悪口を言ってても、手遅れになるばかり。彼らに頼らず、『もう1つの日本』をつくろうよ」と持論を展開した。

 4年間、毎月1回の対談は休むことなく、43回続いた。「菅原文太の魂が、ここにある!」と題した「本の窓」15年1月号の追悼特集には、菅原さんが話した「すべての日本人、とりわけ在野の人々、異端、異能の人々の出番ではないかと思う。この場で、そういう人たちに外野から問いかけていきたい」という、対談にかける思いも掲載している。過去の対談をまとめた単行本「ほとんど人力」は昨年出版され、最後の対談を含めて新たに単行本化も検討中という。【林尚之】