元日弁連会長の宇都宮健児氏(70)のシンポジウム「希望政策フォーラム」が21日、都内で行われた。

 第10回のテーマは、11年の福島第1原発事故発生を受け、国の避難指示がなかった地域から福島県外に避難した自主避難者への住宅支援が3月末で打ち切られる問題について、現状の紹介と議論が行われた。

 国が指定した帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域からの避難者には、東京電力から不動産賠償、精神的損害賠償がある。一方、自主避難者については、福島県が災害救助法に基づく「みなし仮設住宅」として無償提供してきた住宅支援が唯一の補償だ。福島県は、その支援を3月末で打ち切る方針を発表した。同県は16年10月、自主避難者は2万6601人おり、約70%の1万8620人が4月以降の住居が未定と発表した。

 その裏には、自主避難者が経済的に困窮しているという現実がある。自主避難者の中には、夫が福島県内で働く一方で、子どもを被爆から守るために妻子が県外に避難し、二重生活を余儀なくされる家庭が多い。

 全国で最多の約2000人の自主避難者を受け入れている東京都は、都営住宅の優先入居枠を200戸から300戸に増やした。ただ(1)ひとり親世帯で同居親族が20歳未満の子だけ(2)60歳以上の高齢者(3)18歳未満の子どもが3人以上(4)身体障害者などの入居資格がありハードルが高い。民間住宅に引っ越すにも、東京は家賃相場が高く、そもそも引っ越し費用の問題もある。この日は自主避難者が駆けつけ悲痛な叫びを上げた。

 女性 4月以降、住む家がない。間もなく都営住宅を追い出され、路上生活になります。私は、行くところがどこにもありません。昨年、都営住宅の申し込みをしようとしましたが、20歳の子どもがいるから、申し込むことも出来なかった。(対応した職員から)「(都営住宅は)都民のためにある、避難者のためにない」と追い込まれた。生活の困窮を訴えたが、とことん無視された。(中略)住民票を都に移しても難民扱い。避難者はいじめの対象で、子どももいじめられる。私は母として子どもを放射能から守りたい。今の家を継続してくれないと、路上生活しかない。なぜ引っ越さないと言われても、金銭的なものもある。

 女性 都営住宅に家族4人で住む避難者です。都営住宅の優先枠に申し込みたかったが、世帯要件に引っ掛かり、2人しか入れなかった。私と高校生の息子と、20代の娘と孫がいる。親子の、どちらかしか申し込めないと…娘と孫だけは、あっせんされた住宅は決まったが、私と息子は決まっていない。条件がすごく厳しくて路上生活になる。主人が福島にいるので3家族分断になる。高校生の息子は、4月から高校に通わなければ行けないのに住所がなくなったら通えない。国も福島県も個人的なことは何も考えてくれない。子どもの教育も受けさえてもらえない、冷たい国です。

 小学3年の娘と5歳の息子と母子避難しています。夫は福島県いわき市にいます。何で、このような生活になっているか…原発がなく地震、津波だけだったらと、いつも思う。下の子は震災から5カ月で、おなかにいることが分かった。私たちは被害者なのに、加害者のように見られる。福島の親戚からも「いつ帰ってくるんだ」と言われる。何を持って安心だと言ってるの…といつも言う。夫からは「子どもが大事だから、もう少し我慢できないかなと」。一緒に暮らしたいですけど、そうしてほしいと。一緒に住みたいと子どもにも言われ、どうしたらいいんだろうと…自分がおかしくなりそうな感じ。安心して住んでいることが出来ません。

 悲痛な訴えが続く中、福島県いわき市から埼玉県川越市に自主避難した女性は、16年6月に「川越市民と一緒に原発避難者と歩く会」を立ち上げ、勉強会などを開く取り組みを報告した。川越市に対して7回、行政交渉を繰り返し、同市からは自主避難者への対策に予算をつける方向で頑張ると返答があったという。その中、22日には同市の市長選挙が行われる。女性は「要望書や請願書では、福島県も国も動かない。だから避難した自治体と動く。声を上げられない避難者が、まだまだいる。下を向いてはいられない。お母さんが笑わないと、子どもも笑わない。人権問題で絶対に災害じゃなく、これは東電と国の人災だと言って、当然の権利だと言っていきたい」と強く訴えた。

 宇都宮氏はシンポジウムの最後に感想を求められると、涙を流し、声を詰まらせながら思いを吐露した。

 宇都宮氏 安倍首相とか国会議員とか、小池知事とか都議会議員に聞いてもらいたい。本当に困っている人、本当に苦しんでいる人を救うために政治がある。そういう人の声が国、自治体に届いていない。耳をふさいでいる政治家が、あまりにも多いのではないか? 築地市場の豊洲移転の白紙撤回と、この問題を(17年夏の)都議会議員選挙の最大の争点にし、全候補に突きつけないといけない。それが政治家がやることでしょうと、しっかり問うていかないといけない。

 宇都宮氏と、同氏を支援する希望のまち東京をつくる会は21日、東京都に対し自主避難者に対する支援施策を要請する文書を発表した。

 (1)都として現行の避難先の無償提供を延長。

 (2)都営住宅の優先枠について収入・世帯要件を撤廃、大幅に緩和した上で再募集を行う。とりわけ既に入居している人が継続して居住できるようにする。

 (3)雇用促進住宅や民間賃貸住宅、国家公務員住宅に避難している自主避難者については、住居費負担が都営住宅家賃並みになるよう、家賃補助を行う。

 (4)行政の姿勢を明確に示すため、都内の自主避難者を17年3月末で強制的に退去させないと表明。

 (5)避難者の声を、小池百合子都知事が直接聞く場を、早急に設定する。

 宇都宮氏は「3月までに、小池知事と対話する場を設けたい」と強い意欲を見せた。【村上幸将】