将棋の第89期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第5局は17日、東京都千代田区の「都市センターホテル」で行われ、挑戦者の豊島将之八段(28)が羽生善治棋聖(47)を下した。対戦成績を3勝2敗とし、タイトルを初めて獲得した。羽生は竜王のみの1冠に後退。前人未到のタイトル獲得通算100期はならなかった。将棋界はこれで、8大タイトルを8人で分け合う戦国時代に突入。過去には1987年(昭62)10~11月、7大タイトルを7人で分け合った例がある。

 豊島が羽生を倒して、戦国時代をアピールした。初のタイトル獲得に、「まだ実感がわかない」と対局直後は話した。だが、局後の記者会見では、「名人戦の挑戦者決定戦が史上初の6人によるプレーオフになったように、上のレベルが拮抗(きっこう)している」と冷静に分析した。

 最近は、羽生が複数保持していたタイトルを、若手が次々と奪っている。一昨年の佐藤天彦名人(30)、昨年の菅井竜也王位(26)に中村太地王座(30)、今年の豊島。世代交代が着実に進んでいる。AI(人工知能)を駆使するなど、最新の将棋を研究し、新しい手を考え出す。将棋の内容も変化した。「これはないと思っていた指し手をAIが推奨し、改めて見直されている」と羽生も認める。最新型を指しこなし、将棋界の主力となってきた1970年代生まれの羽生世代を追い抜いていった。

 元週刊将棋編集長で、大商大アミューズメント産業研究所の古作登主任研究員(55)は「若い世代の方が圧倒的に研究量が多い。さらに深く読める。それが強さに直結している。羽生さんも、ついていこうとしているが、公務が忙しすぎて時間が足りない。その差が盤面に表れ、勝敗につながる」と分析した。

 かつて、31年前にも同じような状況があった。7大タイトルを7人で分け合っていた。平成の始まりとともに、羽生世代が台頭。一時代を築いた中原誠16世名人、谷川浩司九段らの常連者からタイトルを奪い、同世代で争った。

 羽生らは当時の先駆者として、パソコンを研究に導入。棋譜をデータとして打ち込み、管理した。研究で局面検索し、過去の例から勝負の分かれ目となったところで新たな手順を見つけ、勝ち星を量産した。今ではAI世代に取って代わられようとしている。

 「この1、2年で世代交代が進むでしょう。もちろん、藤井さん(藤井聡太七段=15)も含まれます」と古作研究員。豊島も、「若手にも強い人がそろっている。藤井さんはこれからかなり強くなっていくでしょう」と警戒した。歴史は繰り返されるのか? 世代間の闘争から、目が離せなくなった。【赤塚辰浩】