ベルギー1部リーグのシントトロイデンVVでコーチをすることになり、海外で現場復帰することになった。昨年12月に日本サッカー協会を離任してからは、強化、ダイレクターの仕事ではなく、現場の指導者としての道にこだわり、次のタイミングを待っていた。8年間、日本代表の強化を通じてすべてのカテゴリーでアジアの予選、世界大会を経験させてもらった。この財産はかけがえのないものだと思っているが、これをどう活かすかが今後の自分の課題でもあると思う。選手引退後、指導者と強化スタッフというチームを支える2つのポジションを両方経験してきたことは、勉強になり、知識となり、多くのことを学んだ。

 だが、これからしばらくは、指導者として「一意専心」していきたい。多くの外国人監督や選手たちと仕事をしてきた。言葉が通じない、文化や習慣が違う、などのデメリットもあれば、こんな考え方や指導方法、戦略の立て方があるのだと日本人の視点にはないものを学べるメリットもあった。

 しかしサッカーの本質は変わらない。ルールも変わらない。方法論や指導論には正解がないけれど、彼らから学び、これから自分の信条にしていきたいのは、サッカーはシンプルであり、プレーするのは選手である、ということだ。難解な戦術論や経験則からくる指導論を振りかざし「もっと良い選手がいればな…」とぼやく監督にはなりたくない。

 選手が楽しいと思うような練習、選手の知的欲求を満たせるような段階を踏んだトレーニング理論、そして勝利への確率を最大限に高められるようなチーム戦術など、必要なことは多いが、指導者は、試合が始まってしまえば、選手を信じて任すことしかできない。選手に躍動感が感じられて、あらゆる局面で選手が自分で判断できるように導くのが指導者の務めだと思う。

 ベルギーでは、言葉の取得ではなく、本質を追求し、トレーニングを通じて選手たちから信頼されるかどうかをトライしたい。国籍は関係なく、1人のコーチとして選手たちの成長をサポートし、具体的な指導をし、それらを彼らに納得させて信頼を勝ち取る。彼らが知らない日本人指導者のきめ細やかさや勤勉さ、情熱の部分で勝負したい。

 欧州のクラブといえども、日本の方が優れている点もあるだろう。欧州だからなんでも良いというのではなく、最終的には、日本が発展するために、世界を知る、良い点も悪い点も把握した上で、日本のストロングを追求していきたい。

 出発前にJFL・ブリオベッカ浦安のトレーニングを2週間だけサポートした。監督に就任した柴田さんとはFC東京時代からの友人だ。毎朝6時に起きて、9時から練習。名前も経歴も知らない選手たちに対して、自分の持てる力を全部出して向き合った。彼らはアマチュアではあるけれど、本当に真摯(しんし)にサッカーに向き合っていて、午後の仕事の影響も感じさせず、ひたむきにトレーニングに取り組んでくれた。本当にサッカーの原点を感じさせてくれて、とてもうれしかった。

 こういう経験も指導者として幅を広げることになると信じている。世界中、どこへ行ってもサッカーの本質は変わらない。与えられた環境の中で、チームの勝利や選手の成長のために全力を出し切ることが重要だと感じる。

 今は、32年前に18歳でブラジルに渡った心境と同じだ。あのころは何も考えずにただサッカーがうまくなりたかった。今もそうだ。不安はあるけれど、チャレンジしたい、指導者として成長したい、という欲求のみが自分を後押ししてくれる。家族の理解にも感謝したい。

 その純粋な熱い思いのままに現役を続けているカズ(三浦知良)にも、応援のラインをもらった。同級生の彼の頑張りがいつも私に勇気をくれる。

 でも、32年前はラインもメールもなかったな。世界は狭くなったものだと実感する。(霜田正浩=ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)