<W杯アジア最終予選:日本6-0ヨルダン>◇8日◇埼玉

 日本が2連勝を飾った。「センター前田」の頭が、1つ抜け出した。一見、高さ勝負と思われた場面は前半18分。本田の右CKをFW前田遼一(30=磐田)が打点高く先制。高く飛ぶ一方で、左肩を使って相手DFの体を押さえた。熟練した技術はボールがあるときだけに限らないのがストライカーの証し。ただ前回に続く連発にも「点を取れたのはよかったけど、それ以外はシュートを打てていない」と話すのも前田らしかった。

 今年で31歳。ベテランの域に達しようとする前田を新鮮な感情が奮い立たせる。今年1月、イングランド2部のウェストハムへ練習参加した。わずか3日。しかも日本はオフ中。それでも「30歳の自分が海外に挑戦するには、ラストチャンスになるかもしれない」とサッカー発祥の地へ向かった。

 それは「楽しかった」が「悔しかった」。結果は正式オファーには至らなかった。それでも挑戦した3日間は貴重な時間。日本ではない出会いもあった。世界から集まった練習生の中で、米国からきたFCダラスDFジョージ・ジョン(25)とは気が合った。小学校まで米国で暮らした経験もあり、英語を駆使。そして最後の別れの言葉は「お互い頑張ろう。W杯でまた会おう」。約束のためには、負けられなかった。

 先発ではMF遠藤に次ぐ年長選手だ。後半8分に、自身のドリブルから獲得したPKを、ハットトリックのかかった本田に譲った。「蹴りたかったけど」とFWとして悔しさをにじませたが、本田からの「次は譲りたい」という気持ちが、またチームを強くする。圧勝の口火を切り、本田の偉業を演出した男・前田。その存在は、日本に欠かせない。【栗田成芳】