日本を熟知するジーコ監督だけに、日本代表の現状は完全に把握する。ザックジャパンが臨んだ6月のW杯最終予選3試合の映像も既に目にしている。

 ジーコ監督

 今の日本代表は技術的に優れたチームだ。MFには試合運びのうまい長谷部、遠藤という選手がそろっているし、彼らのことはよく知っている。日本の選手にスペースを与えて頭を上げさせたらダメだ。常にマークする必要がある。ザッケローニ監督が日本に当てはまった攻撃的なシステムを取り入れている。このグループの中では最強のチームと言える。日本は既に出来上がったチーム。誰をマークするとか、個人マークさせるとかで勝負が決まるわけではない。

 日本で最も警戒すべき選手は誰か-。その問いに対する答えに、ジーコジャパン時代に指導したこともある「背番号7」を挙げた。今の日本に欠かすことができない不動のボランチだ。

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 誰か1人を選ぶなら、遠藤を選ぶ。遠藤はチームを形作る上での責任者だ。彼がボールを持ち、日本の動きをつかさどる。試合中に歩いている風に見えるが、彼の足から試合の流れがつくり出される。こぼれ球も彼の足もとへ転がり込む。足に磁石がついているようにボールが彼を求めていく。まあ、遠藤は安心していい。(イラクの選手の)誰かを彼の背後につけてグラウンド中を追わせるなんてことはしないから(笑い)。

 日本の攻撃の軸となっている本田圭佑についてのエピソードも明かしてくれた。ジーコ監督が日本を率いていたころ、新人として名古屋に入団した17歳の本田を注目していたという。

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 当時、名古屋の試合を視察した際、(当時名古屋で現柏の)ネルシーニョ監督に「日本代表に名古屋の選手はGK楢崎しかいない。誰か他に代表でプレーできそうな選手はいないか?」と聞いたら、ネルシーニョは「推薦できる選手は1人しかいない。だが、彼はまだ若くてデビューしたばかりだ」と本田を指した。それから私は本田を観察し始めたんだ。日本代表監督を辞した後も本田を気にかけていた。CSKAモスクワを指揮していた時も会長に獲得を進言した。実際に獲得したのは私が監督を辞めた後だったけどね。本田は決定的な仕事ができる選手であると自信を持って言える。

 世界屈指の名門マンチェスターUに移籍した香川についても高評価を下した。

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 私が代表監督をしていた時には香川のことはまだ知らなくて見てもいなかった。彼がブンデスリーガで活躍した時に初めて見た。ずばぬけた選手で一流プレーヤーだ。チームのためにプレーでき、決定力もある。頭脳的なプレーもできる。私のチームにも欲しかった選手だよ(笑い)。(本田と香川には)特別な注意が必要だ。ただ、それを私たちができるかどうかが問題になるけど。

 チームを比較することを是としない指揮官ではあるが、あえて慎重にジーコジャパンとザックジャパンを比較した。

 ジーコ監督

 私は比較するのが嫌いなんだが…。私は得をしたと思う。W杯日韓大会のメンバーがそろっていたから。さらに私は日本との関係が深かったから選手も知っていた。海外でプレーしている選手が少なかったから、いざとなれば国内でプレーしている選手たちだけでチームもつくれた。ザッケローニ監督は日本に着いて初めて日本の選手を知ったと思うし、チームのベースは欧州に移籍した選手だからね。

 現在、韓国で合宿中のイラク代表は試合直前の9日に来日予定だ。遠藤、駒野、長谷部。自らが日本代表に招集した選手と相対することになる。

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 難しいことだ。でも、こういう経験も人生だから。プロフェッショナルだからこそ経験できる。ボールが転がり始めたら、今の私の選手たちのことだけを考える。

 9月11日、愛する日本と慣れ親しんだ埼玉スタジアムのピッチで対戦する。「神様」と称された男が日本にとって最大の敵となる。【取材・エリーザ大塚通信員、構成・菅家大輔】