<大分ナビスコ杯V「地方から頂点へ」:(下)>

 J1初タイトル獲得から一夜明けた2日。大分のクラブ事務所の一室で皇甫官統括本部長兼育成部長(43)が口を開いた。「来年は難しい年になる」。97年の経営危機から05年の成績不振、債務超過問題まで、大分は4年周期で難題にぶつかってきた。09年。そのサイクルとなる年を迎える。

 昨年のチーム人件費は約12億円。J1平均の15億円より3億円も安い。限られた資金で今季も登録選手は28人。マネー競争も避け、低コストでも運動量豊富な馬力型の選手が集う。守備的MFのエジミウソンとホベルトをはじめとした献身的なプレーと奮起は、今季躍進の原動力だった。だが、肉体的に精神的に疲労が残る昇格、優勝争いの翌年にガクッと成績が落ちる状況を何度も経験した。現在4位のリーグ戦で3位以内に入れば来年のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を得るが、選手層の薄い大分には、それも不安材料。ACLとの同時進行で昨年のリーグ戦前半が不振だった川崎Fを例に「リーグ戦に影響すれば、J2降格の危機にもある」と、予測する関係者は少なくない。

 昨年のJ1平均営業収入は32億円。同22億円の大分は選手の移籍金収入がなければ20億円を切っていた。日本一を獲得したクラブも、経営は毎年のように綱渡り状態なのは変わらない。今季リーグ戦のホーム平均入場者数は1万8000人。昨年より1000人減だ。チームの成績とは関係なく進むサポーター離れが続けば死活問題となる。

 クラブは10月、早くも来季のシーズンシート販売を開始。目標を今季の6000人から1万人に設定した。「120万人の県民の2人に1人が、1回1000円を払って見てくれるだけでも6億円になる」(クラブ関係者)。昨年度5億円の入場料収入が増えれば、補強費増加が実現できる。

 タイトルを獲得した後、大分は「地方クラブのかがみ」と称された。だが、9億円のクラブの広告収入も、3分の2が、県外企業によるもの。強豪クラブへ本格的に成長するためには本当の意味で、県民と行政のさらなるサポートが必要だ。「大分愛」を合言葉に日本一の夢をかなえたトリニータ。チーム名の由来となった県民、企業、行政の「3位一体」のきずなをさらに深めることが、クラブの発展に欠かせない。【特別取材班】(おわり)