今季限りでの引退を表明している磐田MF名波浩(35)が、自らのFK弾でチームを勝利に導く。26日行われる天皇杯5回戦のG大阪戦に向け25日、磐田市内での練習で、直接FKを入念に繰り返した。チームはリーグ戦でJ1残留争いをしており、この試合には主力12人を除いたメンバーで臨むため、先発は確実。1日でも現役生活を長くするためにも、「名波の左足」が火を噴く。

 きれいな弧を描きながら、何度もゴールネットを揺らした。名波はゲーム形式の練習後、「フリータイム」になると、ゴール前から直接FKの練習を繰り返した。「ここからなら入りそうな気がするんだよな」。そうつぶやきながら、ゴール正面に向かってやや右の位置から、壁役の人形をあざ笑うかのように頭上を越え、枠をとらえた。

 得意な場所ではある。99年にセリエAのベネチアへ移籍し、イタリア杯ペスカラ戦(10月27日)のロスタイムに直接FKの場面で、公式戦初ゴールを決めた位置だった。「『1年ずっと練習してきたけど、この位置でのファウルがなかったな』って話をしていた。あの位置がいいね」。チャンスがあれば、決められる自信はある。当時のシーンと同じように、ゴール右隅に何度も蹴り込んだ。

 勝てば現役生活を来月20日(天皇杯準々決勝名古屋戦)まで延ばすことができる。逆に負ければ敗退が決まり、J2クラブとの入れ替え戦(12月10、13日)にまわる可能性もあるが、リーグ戦は残り2試合のみ。チームはJ1残留争いで厳しい戦いを強いられ、リーグ戦での出場機会が減っているのが現実だ。実際に引退を決めた直後「これがホームでの最後の試合になるかもしれないから」と、父元一さんをこの日の試合に招待した。

 前節柏戦の先発メンバーはDF茶野のみで、主力12人を除いたメンバーで臨む。「フレッシュな選手がたくさんいる。楽しくやらないと。失うモノは何もない」。日本サッカー界ですっかり定着した「名波の左足」は、まだまだ休むつもりはない。【栗田成芳】