流れる涙は、仙台で芽生えた“誠の絆”の結晶だった。仙台は23日、泉サッカー場で今季最後の練習を行った。自主トレーニングを終えた選手が引き揚げる中、DF角田誠(30)が勇退する手倉森誠監督(46)に声をかけた。「一緒に走りましょう」。ゆっくりとしたペースで2周目に入ると、角田がネックウオーマーを鼻までたくし上げ、目頭を押さえる。「寒かったんです」。本人は練習後、ばつが悪そうに苦笑してごまかしたが、あふれる感情を抑えきれなかった。

 寂しさをこらえ「僕自身がこれからどういう振る舞いをするべきか」などを聞いた。「お前の思う通りにやって、仙台を強くしてくれ。オレはいつでも相談に乗るぞ」と背中を押された。若くして頭角を現しながら、強すぎる勝利への執念が、時に周囲との衝突を生んできた。手倉森監督は初対面の印象を「うわさほど、とげとげしい男とは思わなかった」と振り返るが、実際、仙台の中でも獲得を反対する声があったという。それでも全幅の信頼を寄せてもらった。「もう少し早く出会っていれば、僕はもっといい選手になれたかもしれない。3年間で間違いなく人間として成長できた」と感謝は尽きない。

 10月にU-21日本代表監督就任が正式に決まった手倉森監督。ミーティングでチーム全体に報告する直前、角田だけは1対1でその覚悟を伝えられている。それ以来、タイトルで最後の恩返しを目指してきたが、かなわなかった。「ただの指導者ではない、人間として尊敬できる人。自分も将来、ああいう指導者になりたい」。師弟関係は続いていく。【亀山泰宏】