ここ数カ月、アマチュアサッカー界での暴力事件に関する報道が目についた。

 ルール地域の地元紙「WAZ」によれば、ドイツ西部の中都市エッセン市内では、11月上旬に計4試合、12月上旬にもU-17女子を含む3試合が中断されており、レッドカードを提示した主審が当該選手から「その気になればお前を刺すこともできるからな」と脅迫されたこともあったという。

 また11月下旬、エッセン市サッカー協会がバリススポルの1軍、ユスポ・アルテンエッセンの2軍、SpVggシュテーレのU-19など3チームの試合に、しばらくの間、主審を送らないことを決断。同協会で代表を務めるトーステン・フリューゲル氏は「前にも2~3回大きな事件が起きたし、主審が殴られてあごを骨折したこともあった。その後、1年くらいはおとなしかったが、この11月にまた同様の事件が4件も彼らの試合であった。そのような攻撃から審判を守る手段は、これ以外には存在しない」と、地元紙「ライニッシェポスト」に語っている。

 おそらくこれらを目にした人は、「サッカー場で警察沙汰なんて、どうしたものか。しかもこんなに起きてるのか」と考えたことだだろう。もちろん私もその1人だった。だが、ドイツサッカー連盟(DFB)の見解はまったく別で、グラウンドで起こる暴力事件は、あくまで例外だと考えているようだ。

 DFBは2014-15シーズンからアマチュアや育成年代も含め、全試合をデータバンクで管理しており、スコアや得点者、警告、退場はもちろんのこと、暴力行為など犯罪が起こった場合や、何らかの理由で試合が中断もしくは開催不可能になった場合も、主審がコンピューターを通じて報告しなければならない。

 そしてそのデータによると、昨季ドイツ全土で行われた約160万試合のうち、問題が報告されたのは0.48%。細かく見ていくと、暴力行為が起こった試合は3717、その他犯罪が起きたのは3037試合、これらの要因で試合中断に追い込まれたのは全体の0.04%だったという。

 WAZ紙の取材に対し「サッカー場での暴力が増加しているという兆候はありません。量も中身もです」と語るのは、DFBが管轄するグループ「フェアプレーおよび暴力予防」に属し、普段はテュービンゲン大学で勤務している犯罪学者タヤ・フェスター氏だ。

 同氏によれば、バーデン・ビュルテンベルク州の州都シュツットガルトでは、アマチュアサッカーでの犯罪発生率が約2%で、これに比べるとエッセンの数値は必ずしも高い部類には入らないという。そして同様の問題は以前から存在しており、最近になって急に増えてきた印象を受けるのは、インターネットやSNSの普及により、事件を非常に身近なものとして感じられるようになったからだという。

 ちなみにフェスター氏は、ここ数カ月で暴力事件の報道が増えたことについて、こう付け加えている。

 「10月から12月にかけては毎年、件数が上昇します。この時期は1年で最も暗い季節であるため、(サッカー界だけでなく)一般的に人々は陰鬱(いんうつ)な気分になりがちですし、(夏に開幕して数カ月が経過しているため)ある程度は順位も固まってきます。ただでさえ暗い精神状態なのに、『降格争いに巻き込まれつつあるクラブの、何カ月もゴールを奪えていないFWが、土のグラウンドでファウルを受けて水たまりの中に横たわる』などの条件が重なってしまえば、『夏の晴れた日に行われる中位2クラブ同士の対戦』よりは、はるかに暴力行為が起こる可能性が高まります」

 もちろん、このような事件が1つも起こらないのに越したことはないし、「暴力に対して寛大になろう」などという気はさらさらないが、想像以上にその発生率は低いことが分かった。フェスター氏の「事件を過剰に捉えたり報道したりすることは、何の助けにもなりませんよ」という言葉は、我々も肝に銘じておかなければならない。