陸上男子100メートルの桐生祥秀(東洋大)が、初めての五輪に挑む。日本歴代2位の10秒01を持つ20歳は決勝進出が目標。日刊スポーツの新春インタビューに答え「(人々の)記憶に残るのは決勝だけ」とこだわりを口にした。あと0秒02に迫った日本人初の9秒台は決勝を狙う上での参加資格ととらえ、「暁の超特急」吉岡隆徳以来84年ぶりのファイナリストを狙う。

 17歳で10秒01を記録してから3年。20歳になった「ジェット桐生」の目標はシンプルだ。32年ロサンゼルス五輪の吉岡以来、日本人2人目の決勝しか見ていない。

 桐生 決勝に残ることが、僕の陸上をやっている目標。(人々の)記憶に残るのはやっぱり決勝だけ。予選落ちも準決勝落ちもほぼ変わらない。どちらも落ちている。今まで日本人で準決勝敗退は何人もいる。決勝に残るかどうか、です。

 決勝にこだわる理由は100メートルの魅力と直結する。昨年3月には追い風3・3メートルの参考記録で9秒87をマークした。追い風参考という枠を外せば、アジア人が歴史上最も速く100メートルを駆け抜けたタイム。だが桐生の印象は驚くほど薄い。

 桐生 もう覚えてない。まあまあ走れているな、という感じぐらいです。だって追い風参考ですから。そっちではなくて、ファイナルに残りたいのが目標。競争というのが原点。100メートルには同点とかない。球技じゃないし、結果がわかりやすい。シンプルで好き。

 桐生がけがで欠場した昨夏の世界選手権北京大会で蘇炳添(中国)が準決勝で9秒99を出し決勝に残った。

 桐生 先を越されて、悔しい気持ちだった。本当はそれをやりたかったけど、終わったことは仕方ない。(蘇は)強いという印象だが、逆にいえば黄色人種が決勝に残れないということはなくなった。皆は「日本人は黒人と違う」というが、中国人とはほぼ一緒。同じです。中国は陸上が強くなってきた。日本も強くならなきゃいけない。

 「日本人初の9秒台」は桐生にとって決勝と同じくらい重要な目標だった。だが今、その位置づけは変化した。

 桐生 9秒台を出したら確かに価値はあるでしょう。でもそこじゃない。9秒台で満足していてはだめ。世界大会の決勝は9秒台でなければ残れない。世界選手権は(13年モスクワ大会、北京大会も)10秒00の選手が準決勝敗退です。その数字にこだわっているのはたぶん日本だけだと思う。9秒台はファイナルを目指す上での参加資格だと考えている。リオまでに9秒台を出しておく。それも1回ではなく複数回出しておく。その上で五輪本番の舞台で9秒台を出すことが大事。

 爆発力はあるが、けがも多い-。そんな周囲の見方を本人は気にしていない。

 桐生 けがはあまり覚えてないし、忘れてます。ただ、それもタイムを出せば関係なくなる。昨年は結果を残してないし、達成感もない。でも結局はタイム。この競技は分かりやすい。

 14年春の大学入学時、20年東京五輪の決勝が大目標だった。だが2年間で目標はリオに前倒しとなった。そこには土江コーチとの二人三脚で成長してきた確かな手応えがある。

 桐生 高校時代と比べて、タイムのアベレージが上がっている。いけると思う試合は絶対に10秒0台、10秒1台前半でいけるようになった。そこは全然違う。

 桐生は昨年10月に10秒09を記録し、五輪参加標準記録をクリア。6月の日本選手権で優勝すれば、代表に内定する。今季の初戦には世界室内選手権(3月、米国)の男子60メートルを見据える。

 桐生 いま自分が(世界で)どのくらいの位置にいるか、知りたい。スタートからの大事な流れを確認できる。五輪の初出場が決まったら最初は喜ぶでしょうね。でも、そこからすぐに本当の目標が待っている。

 リオデジャネイロ五輪の男子100メートル決勝は、8月14日午後10時25分(日本時間同15日午前10時25分)。そのスタートラインで、桐生ジェットを爆発させる。【取材・構成=益田一弘】

 ◆桐生祥秀(きりゅう・よしひで)1995年(平7)12月15日、滋賀県彦根市生まれ。13年4月に日本歴代2位の10秒01をマーク。14年日本選手権初優勝。昨年3月に追い風参考ながら9秒87を記録して電気計時で日本初の9秒台に突入。家族は両親と兄。175センチ、69キロ。