<陸上:日本選手権20キロ競歩>◇19日◇神戸市六甲アイランド甲南大周辺コース

 「美女ウオーカー」が初の五輪切符を手にした。女子は昨年の大邱世界選手権代表の大利久美(26=富士通)が、1時間29分48秒で2連覇。日本陸連の設定したロンドン五輪派遣基準の「1時間29分59秒以内で優勝」をクリアし、女子競歩の内定第1号となった。

 冬の青空に、さわやかな笑顔が広がった。大利が女子1枚目の五輪切符をゲットした。昨年優勝者の証しであるゴールドのゼッケンを揺らし、4キロ過ぎから「独歩」して圧勝。終盤ややペースダウンしたが、ラスト1キロで必死に腕を振った。派遣基準を11秒クリアして小さくガッツポーズ。力尽きた女王はゴールすると、その場に座り込んだ。

 大利

 思ったより体が動いたので突っ込み過ぎちゃいました。前半の貯金を使っちゃって後半はギリギリ。今日、絶対にロンドン五輪を決めると思っていたけど、最後は焦りました。

 時間との闘いだった。日本記録保持者の渕瀬真寿美(大塚製薬)と、川崎真裕美(富士通)が故障で欠場。ただ1人の世界選手権代表は「トップ3が争って正々堂々と勝ち取りたかった」とプライドと悔しさをのぞかせた。これで10年国体から国内負け知らず。日本陸連の小坂忠広競歩部長も「女子のエースであるのは間違いない」とたたえる。

 ルックスは、美人選手として人気のバドミントンの潮田玲子にも似ている。ファンレターも多いが「(お笑いコンビ)ザブングル(加藤)とか光浦靖子とか言われます。美しい系は恐れ多いです」と頬を赤らめる。素顔は明るいトークが持ち味のムードメーカー。酒席では周囲を気遣う“宴会部長”で「好きなのは…ビールとかビールとか」。それでもビール党が年明けからアルコール断ちし、祝杯を心待ちにしてきた。

 今村文男コーチは「自分は自分。人は人、というマイペースな子だった。最近やっと変わりました」と言う。08年12月に川崎が他チームから加入。先輩から「自己管理や競技への姿勢」を学んだ。まだ26歳。それでも「最初で最後のチャンス。4年後までは頑張れませんね」と覚悟を持って歩を進める。周囲の誰もが礼儀正しさに感心する日本の女王。「ロンドンでは景色を楽しめるぐらいの気持ちでいきたいですね」と一礼して、またニコリと笑った。【近間康隆】

 ◆大利久美(おおとし・くみ)1985年(昭60)7月29日、東京・杉並区生まれ。中学は「放課後おしゃべりするだけの自称たそがれ部」で、埼玉・西武学園文理から陸上部。2年夏に中距離から競歩へ転向し、日女体大では07年ユニバーシアード4位。09年ベルリン世界選手権12位、昨年の大邱世界選手権は日本勢最高の20位。自己ベストは昨年マークした1時間29分11秒。得意は物まねで趣味はスイーツ巡り。160センチ、45キロ。家族は両親と兄。