市民ランナー川内優輝(24=埼玉県庁)の走りが注目される26日の東京マラソンに、もう1人有力な「市民ランナー」がいる。前回北京五輪は補欠に終わった藤原新(30=東京陸協)。昨年11月、経営問題から所属先のレモシステムとの契約を解除。「プロマラソンランナー」の肩書は一転して、フリーの市民選手となった。故障も重なり、踏んだり蹴ったりの1年を乗り越えてのカムバック。五輪切符のかかる東京で「背水」の一発勝負に挑む。

 今月5日の香川丸亀ハーフマラソンで、藤原が失っていた時間を取り戻した。一般参加ながら1時間1分34秒の好記録で総合6位(日本人2位)。6年前に出した自己ベストを43秒も更新する快走だった。「ずっと1人で練習してきたので、集団の中で流れを感じながら走りたかった。(1時間)1分台が出れば合格だったが、内容がいい中で目標を達成できた」。トンネルを抜け出し、「五輪」という目標が明確になった。

 昨年は人生の急降下を味わった。世界選手権をかけた2月の東京。優勝候補に挙げられながら左ふくらはぎ痛の影響があり、57位に終わった。その後、右足足底筋膜炎を患い、7~9月は走れなかった。さらに3年契約を結んでいた健康食品の製造、販売事業を展開する「レモシステム」に経営問題が浮上。給料が滞り、10月31日付、わずか1年3カ月で契約解除となった。プロランナーから一転して無所属の立場となった。

 「踏んだり蹴ったり。これはいかんぞ、と。よくも悪くも前へ進むしかない。自分にビンタする気持ちで前を向いた」。貯金を切り崩し、現在は国立スポーツ科学センター(JISS)を拠点に1人で練習。同じ市民ランナーの川内との違いを問われると「給料があるかないか。ボクも給料がほしい」と冗談めかした。

 五輪のかかる東京に、人生の再出発もかける。「ハイレ(ゲブレシラシエ)がそれなりのペースでいくはず。その背中を追いかけたい」。昨年結婚した妻、1歳の長女は富山に暮らしており、「定職を見つけて呼びたい」。ロンドン切符をつかめば、無収入の生活から抜け出せると信じる。「オリンピックありきだけど、オリンピック、オリンピックとは言わない。これ『川内メソッド』です」。自らの不遇を笑い飛ばせるほど、今の藤原は自信がある。【佐藤隆志】

 ◆藤原新(ふじわら・あらた)1981年(昭56)9月12日、長崎県諫早市出身。諫早高-拓大を経て、JR東日本入社。08年2月の東京で2時間8分40秒で2位となったが、北京五輪は補欠。08年12月の福岡国際で3位となり、翌年の世界選手権ベルリン大会に出場(61位)。10年3月にJR東日本を退社し、プロ転向。同年5月のカナダ・オタワで2時間9分34秒の大会新記録で初優勝。167センチ、54キロ。