<防府読売マラソン>◇15日◇山口・防府市スポーツセンター陸上競技場発着

 公務員ランナー川内優輝(26=埼玉県庁)が“ギネス級”の記録を樹立した。優勝こそ32キロからスパートされたセルオド・バトオチル(32=モンゴル)に譲ったが、公約通り2時間10分切り(サブテン)の2時間9分15秒の2位でフィニッシュ。2時間9分5秒で3位だった、1日の福岡国際に続く「世界で誰もいないはず」(川内)という、月間2度のサブテンを達成した。またサブテンの通算達成回数も、日本男子最多タイの6回を記録。ギネスブックに申請することを決めた。

 悔しがったり笑ったり、ほえたかと思ったら意気消沈-。レース中のペース変動以上に、川内の感情は激しく右往左往した。「目標達成でうれしいはずだけど、防府で2度もバトオチル選手に負けて、すごく悔しい」。フィニッシュ後、うつむいて話したかと思えば、数分後には控室で日本陸連関係者に「やりますよ、びわ湖では。こんな悔しいことはないっすからね!」とドスのきいた声でほえる。「負けてしまって申し訳ない」とファンには頭を下げてしょぼん…。30回目の節目のマラソンも、川内らしさ満載だった。

 6キロ付近からペースメーカー(PM)、バトオチルと3人で先頭を走る。1キロ2分50秒台を刻み、20キロまでは2時間7分台、PMが外れた30キロでも自己ベスト更新のペースで進む。だが2週間前の福岡の疲労は隠せない。向かい風で前を走らされ体力も消耗した。見透かされてスパートされると、猛追する余力はなかった。「タイムを狙った自分と、勝負をかけたバトオチル選手の差。手も足も出なかった。うれしさ半分、悔しさ半分ですね」。どっちつかずの苦笑いを浮かべた。

 今年11回目のマラソン。これほどのレース過多自体が世界でも珍しいのだから、月間2度のサブテンもおそらく“世界記録”。「申請の仕方が分からないので」と、大会事務局を通じてギネスへの申請をお願いするという。さらに価値ある記録も付いた。78年2月の別大毎日で、宗茂(旭化成)が初めてマークして以降、日本人ランナー64人が達成しているサブテン。通算回数でも日本記録保持者・高岡寿成の6回に並ぶ最多となった。先刻承知とばかりに「そうですね、並んだんです」と胸を張る川内。高いレベルでは数打ちゃ当たる-とはならない。資質の高さを示す数字だ。

 最後に悔しさもちらり。昨年は優勝5回で5勝4敗と勝ち越したマラソン年度成績も、この日の2位で今年は5勝6敗と負け越し。痛いところを突かれた-とばかりに顔をしかめた直後には「でも年間4度のサブテンも世界初ですかね…。いろいろな意味で申請を相談します」とニヤリ。やっぱり転んでもただでは起きない。一気呵成(かせい)に、来年3月のびわ湖毎日に向けて「今日がショック療法になって頑張れる」。こんな元気が夏場にもあれば…なんて欲はかくまい。今を全力で走る。川内流を最後まで貫き13年を締めくくった。【渡辺佳彦】

 ◆サブテン

 フルマラソンで「2時間10分を切ること」を指す。達成した選手は「サブテンランナー」などと呼ばれ、一流の証明にもなる。英語の「sub(~より下の意)」に由来。