世界最高峰のスーパーラグビーに、日本ラグビー界の至宝がデビューした。レッズ入りしたFB五郎丸歩(29)が、開幕のワラタス戦に前半26分から出場。チームの今季初得点を得意のPGで決めると、その後もゴールキックを決めて5点を挙げた。最後尾からチームの攻撃を活性化し、守備でも強烈なタックルを披露。試合は10-30で敗れたものの、劣勢の流れを変える活躍で「GOROMARU」をアピールした。

 スタンドからの大きな拍手が、五郎丸の体に降り注がれた。前半26分、赤いジャージーの「23番」が、ピッチに立った。一昨年優勝の強豪に0-20とされた直後。「1分でも早く出たい」と待ちこがれた出番は、チームの圧倒的な劣勢で意外と早く訪れた。

 後半4分、チャンスが来た。中央35メートルのPG、いつものルーティンから繰り出された右足が、正確にボールを運んだ。3-20、反撃ののろしを上げた。同9分の40メートルを超すロングPGは右に外れたが、キック力を十分にアピール。同19分にはSOマッキンタイアのトライ後のコンバージョンをルーティンなしで決めた。

 交代出場後、チームは10得点。「流れを変える」役割は果たした。出場と同時にチームはバックスラインを修正。FBのハントがCTBに回り、パスが通りだした。五郎丸のキックを警戒してか、相手守備の出足も鈍った。前半37分には突破してきたWTBに強烈なタックル。ボールを持つ場面こそ少なかったが「チームに貢献したい」という言葉は実行した。

 合格デビューだった。1月には右手甲痛もあり「開幕戦は無理」と話した。5日の出発時には「まずジャージーを着ること」と正直な気持ちを口にした。日本では活躍できても、スーパーラグビーは別格。過去に挑戦した日本選手が苦しんだことも分かっていた。

 それでも、五郎丸は結果を出した。昨年までのリーグで、チーム初戦に出場できた日本代表選手はSH田中だけ。開幕戦デビューだけでも快挙だが、得点まで挙げた。敗れたが「長くプレーできてうれしい。パワーなど世界最高レベルだと感じた」。グレアム監督も「いい選手だ。トライできなかったのは残念。(先発出場へは)練習するのみだ」と満足そうに言った。

 舞台のスタジアムは、サッカー少年時代に憧れたFWカズがシドニーFCでAリーグデビューした場所。現地在住日本人や日本からの応援客の前で躍動し「夢の世界だった。次の試合へ調整し、ベストのパフォーマンスを出したい」と話した。試合直後、ツイッターでつぶやいた。「また新たな旅が始まった。今は、とにかくラグビーが楽しい。忘れかけてた感覚がかえってきた」。五郎丸が、最高の舞台で確かな手ごたえをつかんだ。

<五郎丸デビューまで>

 ◆15年10月14日 W杯イングランド大会から帰国。会見で正しい五郎丸ポーズを実演付き指南。

 ◆同21日 リーチ主将らと安倍首相を表敬訪問。

 ◆同24日 プロ野球日本シリーズ第1戦の始球式に登場。「神聖な場所」とマウンドではポーズを封印。

 ◆同27日 所属するヤマハ発動機の練習に合流。ファン120人が集まる。

 ◆11月4日 ヤマハ発動機が五郎丸のレッズへの期限付き移籍を発表。翌日の会見でヤマハ愛を強調。

 ◆同10日 15年の新語・流行語大賞候補に「五郎丸ポーズ」「ルーティン」。

 ◆同14日 トップリーグ開幕戦。トヨタ自動車戦で3本のキックで8得点。リーグ通算1000点突破。

 ◆12月5日 樹木希林らと共演した富士フイルムのCMが放送開始。

 ◆12月7日 アサヒビールとの契約発表。同社のCM出演も発表された。

 ◆同16日 日本郵便から五郎丸記念切手発売。

 ◆同31日 TBSの特番「KYOKUGEN」に出演。G大阪MF遠藤とキックで対決。

 ◆16年1月24日 トップリーグ3位でシーズンを終了。ベスト15に選ばれる。

 ◆2月5日 レッズ合流のため、成田空港からオーストラリアに出発する。

 ◆スーパーラグビー 南半球の強豪国、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカに拠点を置くチームが争う世界最高峰リーグ。96年に12チームで始まり、06年14チーム、11年15チームと拡大し、今季は18チームで行われる。各チームが1次リーグ15試合を戦い、プレーオフ進出を目指す。日本人では13年に田中史朗、堀江翔太(ともにパナソニック)が初参戦。秋から冬にかけ行われる日本のトップリーグとは時期が重ならないため、日本人、他国の選手ともに両リーグでのプレーを両立できる。