28日から、テニスの赤土最高峰で、今季4大大会第2戦の全仏オープン(パリ)が開幕する。4大大会で、選手が「最も華やか」と称賛する赤土と、取り巻く新緑のコントラストがまぶしい。1891年に始まった全仏選手権までさかのぼれば、126年の歴史を誇る。しかし、その伝統と華やかさは、常に「魔物」に支えられてきた。

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 全仏のコート、赤土の特徴は、バウンドしてからの球足が遅く、選手は足を滑らせることができるため、球を拾いやすい。必然的にラリーが長くなり、1ポイントを決めるのに、多種多様なショットが要求される。ラリーが長引けば、主導権の奪い合いがめまぐるしい。形勢逆転が多く生まれ、それが「魔物」の正体だ。

 89年全仏は、その典型だったかもしれない。錦織圭のコーチを務めるマイケル・チャン(米国)は第15シードだった。無名というわけではないが、さすがに優勝を予想する関係者はいなかった。しかし、あれよあれよという間に勝ち上がり、4大大会最年少の17歳3カ月で優勝する。

 特に4回戦で、世界1位、3度の優勝を誇るイワン・レンドル(チェコスロバキア=当時)を逆転で下した試合は語りぐさだ。2セットダウンから2セットオールに追いついたチャンだが、その体は限界に達していた。足をけいれんが襲い、勝利への精神力だけで戦っていた。

 最終セット4-3で15-30。奇策が放たれた。チャンはいきなり下からサーブを放った。意表を突かれたレンドルは中途半端なリターンを返球。チャンがストロークでポイントを奪い、そのサービスゲームをキープした。

 続く第9ゲーム。レンドルのサーブで、マッチポイントを迎えたチャンは、サービスライン、ぎりぎりのところにリターンを構えた。動揺したレンドルはダブルフォールト。チャンは、赤土に崩れ落ちた。当時、ルール違反ではないが、マナーという点で、チャンの行動に賛否両論が渦巻いた。しかし、今では、死力を尽くしたチャンのプレーを批判するものなど全くいない。

<全仏の魔物に魅入られた番狂わせ>

 ▽93年女子シングルス準々決勝 M・フェルナンデス(米国) 1-6、7-6、10-8 サバティニ(アルゼンチン)

 フェルナンデスは、90年全米覇者のサバティニに1-6、1-5まで追い詰められた。5本のマッチポイントも握られたが、そこから大逆転。サバティニを下すと、決勝に進み準優勝を遂げた。

 ▽97年男子シングルス決勝 クエルテン(ブラジル) 6-3、6-4、6-2 ブルゲラ(スペイン)

 クエルテンは当時、世界66位。全仏の前週にはツアー下部大会に出ていた無名選手。それが3回戦で第5シード、準々決勝で第3シードを下し、最後は93、94年の覇者ブルゲラを下し優勝した。

 ▽09年男子シングルス4回戦 セーデリング(スウェーデン) 6-2、6-7、6-4、7-6 ナダル(スペイン)

 05年に初出場で初優勝を遂げたナダルは、08年まで4連覇。09年も順当に勝ち上がり全仏31連勝中だった。しかし、セーデリングのサーブと強打に、4セットで敗れた。

 ◆WOWOW放送予定 27日午後5時10分から「現地発! 全仏テニス最新情報」。同9時から「錦織圭 世界の頂点へ!」。ともにWOWOWプライムで無料放送。28日~6月11日は「赤土コートの頂点、全仏オープン・テニス」を連日生中継。