<女子テニス:カンガルー杯国際オープン>◇4日◇岐阜・長良川テニスプラザ

 伊達が準優勝に涙ぐんだ。12年ぶりに現役復帰したクルム伊達公子(37=フリー)は、シングルス決勝で世界ランク86位のタマリネ・タナスガン(30=タイ)に1-2で逆転負けした。復帰戦Vは逃したが「(今大会は)出来過ぎだった」と話し、表彰式のスピーチでは昨年11月に他界した父寿一氏(享年70)を思い出して言葉を詰まらせた。奈良くるみ(16=大産大付高)と組んだダブルス決勝では、ニコル・タイセン(19=オランダ)メラニー・サウス(22=英国)組に競り勝ち優勝した。

 伊達の笑顔が、泣き顔に変わった。滑らかだった口調が、突然おかしくなった。シングルス決勝で敗れた後の表彰式でのスピーチで異変が起きた。

 「素晴らしい1週間になりました。連日、母も応援してくれました。父は亡くなって来られなかったけど、きっとどこかで見守ってくれてると思います…」。

 そこで言葉が出てこなくなった。一瞬、涙ぐんだ。しかし、ぐっとこらえた。もう1度、笑顔をつくると「日本のテニスがよくなるように、魅力を伝えていきたい」と力強く締めた。

 決勝で力尽きた。1セットを先取したが、第2セット以降はミスを連発して連取された。12年ぶりの復帰戦を優勝で飾ることはできなかった。しかし、37歳の体にむち打って、8日間で単複合わせて12試合を戦い抜いた。合計22時間15分。「1戦目で最終日まで戦えるなんて想像できなかった。出来過ぎだと思う」。悔いはなかった。

 最愛の父寿一さんへ、感謝の気持ちを込めて戦った。それが原動力だった。テニスが大好きで、いつも観客席で応援してくれた。心の支えだった。しかし、昨年11月1日、7年の闘病生活の末にがんで亡くなった。現役に戻る決意を伝えることができなかった。それだけが心残りだった。「父も見たかっただろうな。でも、きっと見てくれて、喜んでくれたと思います」。

 シングルスでは敗れたが、その後に行われた21歳下の奈良と組んで臨んだダブルス決勝では、タイブレークにもつれる激闘を制して優勝した。復活への大きな1歩を踏み出した。6日から出場する福岡国際には、再び単複ダブル参戦する。「連戦だと相手も研究してくる。勝ち負けにこだわらず、自分にできることをやっていきたい」。伊達がこれからも日本テニス界に衝撃を与えていく。【木村有三】