<大相撲九州場所>◇14日目◇27日◇福岡国際センター

 西前頭9枚目の豊ノ島(27=時津風)が、肩透かしで大関魁皇(38)を下した。横綱白鵬(25)とともに1敗を死守。日本人として4年10カ月ぶり、平幕として9年2カ月ぶりの優勝へ、王手をかけた。野球賭博に関与し、家族までが騒動に巻き込まれたが、恩返しの好機がやってきた。千秋楽は東前頭筆頭の稀勢の里(24)と対戦する。

 塩を取る時、豊ノ島は気づいた。魁皇への応援一色の中、向正面の片隅、12人だけが励ましてくれていた。立ち合いからもろ差し。前に攻め込み、機を見て肩透かしを打つ。大関を転がした。「家族の声援は、すごい力になりました」。朝7時に高知から駆けつけた両親らに優勝争いの興奮を味わわせた。

 「やっぱり、いいっすね、幕内ってのは」の言葉に、実感がこもる。元関脇の実力者ながら、秋場所は十両にいた。野球賭博にかかわったため、7月の名古屋場所を謹慎し、番付が急降下していた。部屋では、皿洗いから出直した。心労から、体重は10キロ減った。苦しいのは、家族も同じだった。

 当時、実家の梶原食品が販売する「勝越しとうふ」は、ほかの相撲関連商品と一緒に2カ月間、卸せなくなった。地元に張られたポスターや、近くの高校に掲げられた「頑張れ

 豊ノ島」の横断幕は外された。5月に婚約したポップス歌手の竹内沙帆(29)は、キャンセルされた仕事があったという。

 父・梶原一臣さん(57)は「2週間くらい、家から出られなかった。本人には心配かけますから、言えなかった」と振り返る。豊ノ島は言う。「おやじは全く僕には言わなかった。親せきのおばちゃんから聞いて、迷惑をかけたなと思って…」。深く反省し、幕に戻ると快進撃が待っていた。

 騒動の後、7月16日に妹が男児、8月20日に姉が双子を産んだ。色違いの子供服を贈った。姉妹はこの日、白星がデザインされたその服を、3人に着せて声援を送った。姉明子さん(29)は「これから洗濯して、明日も着せます」と験担ぎを約束した。

 楽日は、過去5勝11敗の稀勢の里戦。「普段から『日本人が頑張らなきゃ』って言われることが多い。正直、自分がこういう優勝争いをするとは思わなかった」。

 3日前、父には「オヤジ、いい夢見させてやるよ」と告げた。横綱と星が並べば、決定戦にもつれ込む。婚約者は、羽田から飛行機に飛び乗った。時津風親方(元前頭時津海)は、なじみのふぐ店にタイを発注。おぜんだては、整った。【佐々木一郎】