<大相撲九州場所>◇14日目◇27日◇福岡国際センター

 横綱白鵬(25=宮城野)が大関把瑠都(26=尾上)を寄り切り西前頭9枚目の豊ノ島(27)とともに1敗を守った。

 横綱として、どっしり構えていた。風呂から出てきた白鵬は、豊ノ島の前を大またで悠然と横切った。1敗で並走してきた相手には、目もくれない。何度も優勝争いを経験してきた、意地がある。余裕の表情とは裏腹に、白鵬からは平幕優勝を許さないプライドが、にじみ出ていた。

 白鵬

 ここまできたら、横綱、大関として優勝は渡したくないって意地はあります。こういう場面を何回も経験してますし、気持ちにとらわれず、思い切っていきたい。やるだけですね。

 目の前で豊ノ島が魁皇に勝った。「強いなあ、というか、うまいなあ」と感心はしたものの、土俵下では腕組みしたまま顔色ひとつ変えなかった。把瑠都を相手に、立ち合い一瞬にして左前まわしをつかむ。右の差し手とともに両手を引き付けると、巨漢大関の体を浮かせた。懸命のがぶりで1敗をキープした。05年の朝青龍を超える歴代単独2位の年間85勝目は、完勝だった。

 他を圧倒する踏み込みの鋭さは科学的にも証明された。今夏、運動力学を研究する中京大体育学部の湯浅景元教授が白鵬の立ち合いを解析した。毎秒3・9メートルの速さは、91年にカール・ルイスが100メートルを9秒86で走った時の4・0メートルに匹敵する数字だった。白鵬が「足の指で砂をかむこと。そして、ひざを曲げることを意識している」という盤石の下半身。しことてっぽうで築き上げた武器が、抜群の瞬発力を生み出している。

 千秋楽は、08年名古屋場所以来14場所連続で勝ちっぱなし。決定戦に持ち込まれても、豊ノ島には過去13勝1敗と相性はいい。「優勝決定戦に勝てば年間87勝?」の冗談に「それでいきますか」とニッコリ笑った。自身初の5連覇と2年連続の年間86勝を懸けた楽日。角界激動の1年を歴史的連勝で引っ張ってきた白鵬は、最後まで主役を譲る気はない。【近間康隆】