<大相撲名古屋場所>◇千秋楽◇22日◇愛知県体育館

 喜び二重奏だ!

 大関日馬富士(28=伊勢ケ浜)が、横綱白鵬(27=宮城野)との29年ぶり全勝楽日決戦を制し、昨年の名古屋場所以来6場所ぶり3度目の優勝を決めた。大関の15戦全勝Vは10度目(9人目)。妻バトトールさん(25)が先場所後に次女を出産したばかりで、おめでた続きとなった。秋場所(9月9日、両国国技館)は横綱昇進に挑戦する。

 手が、足が痛くても、それがどうした。賜杯への執念が、日馬富士の全身を突き動かした。低く鋭く突き刺さる本来の立ち合いから右を差し、左の上手出し投げで白鵬を揺さぶる。土俵際に追い込むと、がぶり気味に寄り切った。満員の館内に座布団と歓声が乱舞する。同じ一門に属する、同じモンゴル出身の横綱を、全勝決戦で撃破。最高の下克上を完成させた。

 「この一番は何が何でも勝ちたかった。自分の相撲を信じて、全身全霊でぶつかっていった。本当によかった。(横綱に)いい恩返しができた」。先場所は千秋楽にやっと勝ち越しを決めた男が、名古屋連覇を史上10度目(9人目)の大関15戦全勝Vで飾った。苦しいトンネルを抜け出し、笑顔で喜びに浸った。

 「いろいろけがをして期待に応えられない相撲が多かった。稽古も思うようにできなかった」。昨年V以降は8、8、11、11、8勝と低迷した。右手首、左足首などの古傷が原因だった。今場所初日には右手指の負傷が悪化。それでも耐えた。毎日の取組後に電話で報告を受ける小巻公平後援会長は「泣き言はまったく言わなかった」と、大関の心意気に深く感動した。

 初めて生観戦した家族にも勝利を届けたかった。妻バトトールさん(25)が、5月22日に次女ヒシゲジャルガルちゃんを出産。表彰式後に支度部屋に戻った日馬富士は、優しい父の顔でわが子を抱いた。「2人目の子供は神様からの贈り物。(祝うため)優勝したいという気持ちはもちろんあった。周りの人が喜んでくれるならうれしい。スポーツマンは周囲があってこそなので」と感謝した。

 「ママ、頑張るから」と言って、決戦に向かった。初日の前夜から続けた焼き肉を食べる験かつぎも15日間完走した。名古屋市内の店を切り盛りするのは「日本の母」と慕う国本善子さん(67)だ。来日直後から10年来の付き合いで、日本語を今も教わる。マス席で横断幕を掲げた“ママ”のサポートにも助けられた。

 安馬から改名した現在のしこ名には「綱をはる」の意味が込められる。これまで「富士」がつく大関(東富士、北の富士、千代の富士、旭富士)は全員が横綱に昇進している。大関日馬富士も当然、最高位への期待を背負っている。

 そして来場所は綱とり。過去2度は序盤で夢がついえた。三度目の正直へ「1日の努力だけ。横綱はなりたくてなれるもんじゃない。運命で、なるべくしてなるものだ」と言った。運命を切り開き、綱への道をたぐり寄せる。【大池和幸】