大相撲夏場所(5月12日初日、両国国技館)の番付が25日に発表され、春場所で11勝した隠岐の海(27=八角)が西の新小結に昇進した。島根県出身力士の新三役は1892年夏場所の谷ノ音以来121年ぶり。大関、横綱を目指すことを公言したが、師匠の八角親方(元横綱北勝海)からの厳しい叱咤(しった)に、思わず苦笑いがこぼれた。

 最初の笑顔はどこへやら。表情は次第に引きつっていた。「すごく気持ちが良いです」。その一言から始まった新小結昇進の会見。島根県から121年ぶりの新三役誕生に、隠岐の海は「すごくうれしい。1つ名前を残せるのかな」と、錦を飾れる喜びでいっぱいだった。だが、隣に座った八角親方の言葉1つ1つが、胸を突き刺していった。

 師匠

 上位と当たるし、勝ち星は上がらないだろ。前半は何番か勝てばいい。後半は負けても気が充実した相撲をとってほしい。

 負けることが前提の言葉に苦笑い。それが始まりだった。横綱白鵬に名前を挙げられたことを聞くと「光栄です」と喜ぶも、師匠はすかさず「気を使ってくれたんじゃないの?」。雲行きは次第にあやしく…。

 先場所の優勝争いの再現を期待する質問も出た。だが、遮ったのは八角親方。

 師匠

 まだまだまだ。両横綱より素質がない分、稽古で補わないといけない。隠岐の海は気づいているけどできないんだよな!

 これには弟子も「はい」とうなだれるしかなかった。祝いの席でしかられる新三役の図。「すみません」と平謝りの隠岐の海にハッとした師匠は「まぁ…良かったけど」と苦笑いした。

 そんな親方の言葉も高い期待の裏返しだと、新小結は分かっている。目標を聞かれると「横綱、大関には簡単にはなれないが、目指すのは自由」とはばかることなく公言した。通例ならば夏場所初日の結びの一番で白鵬と対戦する。「全国の皆さんにオレを見てほしいです。負けるんだろうけど…いや、考えないぞ!」。あらゆる厳しさを、はねのけようとしていた。【今村健人】